飛行船の中、大きなソファーにはぽつんと座っていた。
いつも抱いているクマのぬいぐるみは、今も変わらず腕の中にある。
けれど隣にいるはずのイルミが今はシルバに呼ばれているためにいなくて、無表情が常のの顔も心なしか曇っていた。
これから連れて行かれる場所がイルミの家ということもあり、かすかな不安も抱いている。
ほんの少しだけ尖らせた唇をクマに頭に押し付けたとき、誰かが近づいてくる気配に気づき顔を上げた。
見れば、着物を着た少女が手に何かを持った状態で、目の前に立っていて。
「・・・・・・食べれば?」
差し出されたチョコレートを、少し躊躇ったあとで、は受け取った。
指を上げて宙に文字を描き出す。
ありがとう
カルトからは何も返されなかったけれども。
ソファーに並んでお菓子を頬張る子供二名は、確かに交流していたのだった。
天使とピストル(ゾルディック家編)
大きな音を立てて飛行船が着地したのは、これまたやけに大きな扉の前だった。
イルミの腕に抱かれて飛行船から降りたは、その天まで届きそうな高い門を見上げる。
一番小さな扉から一番大きなものまで、1から7までの数字がふられているが、当然それが何を意味しているのかなんて判らずに。
クマを抱きつつ、ただ見上げて。
扉と比べたら申し訳程度の大きさの小屋から出てきた男が、何やら頭を下げている。
『一日一殺』と書かれた布を下げている老人がそれを片手間に受けていて。
は何となくそれを見ていたが、突然目の前に現れた大きなものによってその視界を塞がれてしまった。
見上げれば、厳格な雰囲気を漂わせる眼と視線が合う。
けれど脅えるわけではないに、シルバは軽く頷くと同時に言った。
「・・・・・・開けてみなさい」
背後に聳え立つ、『試しの門』を指し示して。
暗殺一家ゾルディック家を訪れるためには、『試しの門』と言われている扉を開けて入るしかない。
その他の手段で侵入した際には、中に入るミケに襲われる。
生きて入るには扉を開けるしかなく、その力さえない者は敷地を踏むことさえ許されない。
1の扉は、合わせて4トン。最大の7の扉は256トン。
開けられる者だけが、資格を得ることが出来るのだ。
『ゾルディック家の番犬に食べられない資格』を。
地面に降り立つと、見上げていた門がさらに大きく見える。
二・三歩足を踏み出して、けれどは戸惑ったように振り返った。
いつもと変わらぬイルミの向こうで、シルバだけでなくゼノやマハ、カルトや守衛の男までがこっちを見ていて。
迷った挙句、イルミに向かって指を挙げる。
あければいいの?
「うん、開ければいいだけ」
わかった
頷いて、手に抱いていたクマを下ろす。
支えもなく一人―――一個?―――で立ったクマに、イルミを除くゾルディック家の面々は先ほどの廃ビルでの光景を思い出してかすかに身構えた。
まさか門まで飲み込む気じゃ、と考える彼らを他所に、はクマの頭を軽く叩いて。
ぽてぽて、とぬいぐるみが歩き出す。
可愛らしい、などと思っているうちに、クマはそのサイズと比べたら巨大すぎる扉に辿り着き、両手を押し当てた。
ますます可愛らしい、と感じた瞬間。
ガッ
バキッ
・・・・・・・ドオオォォォン
耳を塞ぐ間もなく起こった爆音の後、静かな沈黙が広がった。
小さい扉の金具が飛び、それに引きずられるようにして7まですべての扉の支えが切れて。
今や瓦礫と化してしまった『試しの門』の向こう側に、大きくて静かな獣の姿が見える。
役目を果たしたぬいぐるみは、やはりぽてぽてと歩いてきての腕の中に納まった。
クマを抱いては振り向き、首を傾げる。
これでいい? と表情だけで聞いてくるに、やはりイルミを除くゾルディック家の面々は沈黙したのだった。
2004年7月29日