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「逃げないんだな」
ダークレッドのフリルのついたワンピース。
胸元の編み上げを結んでやりながら、クロロは半ば意外そうに呟いた。
手の中のクマを抱きしめたまま、着せ替えられているリマは小さく首を傾げる。
その愛らしい様子に目を細め、クロロは再度問う。
「イルミの元に帰りたくはないのか?」
ドレスと同色のヘッドドレスを、銀色の髪にも結びつけて。
肩や腕や足、色白の肌と濃紅のドレスのコントラストは目にも鮮やかだ。
自らの見立てに満足していると、そのリマの細い指がゆっくりと持ち上げられて。
宙に、文字を綴る。
だって、イルはかならずきてくれる
絶大的に寄せられている信頼を見せられ、クロロが僅かながら眉を顰めたとき。



「ふむ、邪魔するぞい」



突如として響いた声に、その場にいた誰もがオーラを纏った。





天使とピストル(旅団編)





廃墟と化したビルの一室。
高さからいえば10階くらいのその部屋に、設けられている窓は二つ。
その一つに、今は老人と着物姿の少女がいた。
クロロはその存在に気づいていたので、他の団員たちよりかは落ち着いて彼らの同行を見守る。
髭を撫でつけながら殺気立っている周囲を見回し、老人は口を開いた。
「銀髪でぬいぐるみを抱いている子供・・・・・・」
「あれじゃない? ゼノお爺様」
少女がクロロのすぐ隣にいるリマを指差す。
その際に二人の視線が交錯した。
リマは変わらない表情のまま少女を見つめ、少女はその大きな目で判別するようにリマを見る。
そんな子供たちに苦笑しながら、けれど隙のない動作でクロロは立ち上がった。
突然の侵入者に攻撃をしかけたさそうなウヴォーやフィンクスを、片手で制して。
「ゾルディック家か・・・・・・。四人も来るだなんて、俺たちも評価されたと言うべきかな」
「何、可愛い孫の頼みで来ただけのこと」
老人―――ゼノが、楽しそうに笑いながら答える。
彼らの反対側の窓枠には、いつの間にかシルバとマハが並んでいた。



イルミがリマを取り戻しに来る。
当然ながらクロロは奪取してきた時点からそれを想定していた。
イルミ=ゾルディックという人物は滅多に他人に関心を示さない。だからこそ、興味を惹かれたときは酷くそれに拘る。
そんな彼が、自ら常に共にいることを選んだリマを攫われて大人しくしているわけがない。
だから必ず来るとは読んでいたが。



・・・・・・まさか家族をこんなに駆り出してまで、取り戻しに来るとは。



そこまでこの子が大事か、とクロロは内心で少し呆れた。
だけどその気持ちも判る、と納得しながら。



ルビーよりかは血に近い、ダークレッドのドレスを着た子供。
首元で肩紐を縛るタイプのそれは、肩がむき出しになっている。
同色の長い手袋が肘の上までを隠し、大切そうにクマのぬいぐるみを抱えていて。
レースをふんだんに帯びたスカートからは細い足が伸び、その先は編み上げのブーツに納まっていた。
銀髪に映える赤のヘッドドレス。
まるで人形のような格好をした子供は、リマ自身の無表情も相俟ってさらに人形のようだった。
イルミは良い趣味をしていたのじゃな、などと考えてゼノは一人で頷く。
カルトは最初と変わらずに、ただリマをじっと見つめていて。
シルバはその実力を探るように、マハは何を考えているのか判らない顔で彼女を見ている。
それでも旅団たちへの注意を怠らないところは、さすが暗殺で著名なゾルディック家の一員だった。
クロロは彼らを見定めながら、自分以外の団員じゃ返り討ちに合うな、と推察する。
カルトならば交わすことも出来るだろうが、他の三人は無理。
しかもこの場には、さらに足りない人間がいる。
誰よりも、この場にいるべき彼の姿が。
だがそれも、微かな―――クロロくらいの強さを持っていなければ気づけないほど微かな気配に、否定される。
一つしかない出口に、今は男が一人立っていた。
長い黒髪が風を受けて揺れる。



「返してもらうよ、クロロ」



常より低く、抑揚のないイルミの声が響いた。
クマを抱いたリマが、嬉しそうに淡く笑った。





2004年6月25日