盗賊を名乗るからには、欲しいものは盗るのが義務だ。
天使とピストル(旅団編)
雑多な空きビルの一室。
ダンボールを重ね合わせて作った簡易ベッドの上で、少女がスヤスヤと眠っている。
シャルナークはその寝顔を覗き込みながら、意外そうに振り返った。
「・・・・・・団長がロリータ趣味だとは知らなかった」
爽やかにそう言われてしまっては否定することも出来ない。
クロロは読んでいた本を閉じて、苦笑気味に答える。
「ずっと前から欲しかったんだ。可愛らしいだろう?」
「うん。すごいね。まるで人形みたい」
「起きたらもっと人形になるさ」
クロロの意味不明な言葉を不思議に思ってシャルナークは首を傾げるが、その答えはすぐに返された。
形の良いクロロの指が、静かに少女を指し示して。
小声で囁く。
「ほら、お姫様のお目覚めだ」
銀色の髪がかすかな音を立てて流れる。
小さな顔、震える瞼がゆっくりと押し上げられて。
ガラスのような瞳が周囲を捉える。
赤い唇が少しだけ開かれたのが、やけに蟲惑的だった。
それはまるで、名士が創り出した極上の人形のように。
「おはよう」
瞳が自分を捉えたのに気づき、シャルナークは笑顔を浮かべた。
パチリと音を立てそうなくらい長い睫で瞬いて、少女は彼を大人しく見上げる。
「ダンボールのベッドじゃ寝辛かっただろ? ごめんね、団長ってば気が利かなくて」
「シャル」
「君、名前は何ていうの?」
クロロの反論など遮って、人の良さそうな顔で問いかける。
けれど少女はやはり反応の欠片すら示さない。
ただ、まっずぐにシャルナークとクロロだけを視界に納めていて。
色白い頬から首、その下の黒いワンピースが微かな風に煽られて揺れる。
生きている印象があまりにも希薄で、シャルナークは戸惑いながら振り返った。
「・・・もしかして、プランツ・ガール?」
「いや、本物の人間だ」
「それにしては何ていうか・・・・・・」
シャルナークの話を流して、クロロは手を伸ばす。
こちらを見上げてくる少女に、軽い笑みを口端に乗せて。
「驚かせてすまない。ここは俺のホームだ」
よしよし、と撫でる銀色の髪は、初めて会ったときから触れてみたかったもの。
「君があまりに可愛らしいから攫わせてもらったんだ」
うわぁ、とシャルナークが呆れたのにも気づかないふりをして。
「俺はクロロ=ルシルフル。君の名前は?」
―――クロロと少女が見つめあい、それをシャルナークが眺めること少し。
小さな、握りこめそうなほど華奢な手が、ゆっくりと宙に上がって。
細い指先が空に文字を綴る。
それを見とめて、クロロは笑った。
「―――か。綺麗な名だ」
そんな二人の様子を見てシャルナークは納得した。
先ほど、クロロが『目を覚ませばさらに人形らしくなる』といった意味。
あれは、は喋ることが出来ないことを指していたのだ。
ねぇ、くまは?
「いるよ。綻びていたから今はマチに直してもらっている」
いまなんじ?
「午後の五時だよ」
イルは?
「それは知らない」
最後の問いかけにだけ、クロロはわざとらしいほどにニッコリと笑ってみせた。
文字で話すと、ニコニコと楽しそうに答えるクロロ。
そんな二人を遠目で見ていたシャルナークは、聞いたことのある単語を耳にして、まさかと思う。
「団長・・・・・・」
「何だ」
「もしかしてその子、誰かの宝物?」
「当然だろう? これだけ愛らしいのだから」
「・・・・・・ちなみに、誰の?」
まさかまさかまさか、と心の中で繰り返して。
きょとんとこちらを見つめてくる少女に、本気で焦りながら。
「イルミ=ゾルディックの宝物だ」
やりやがったこの馬鹿!
・・・・・・とシャルナークが心の中で絶叫したのは、致仕方ないことなのかもしれない。
いつまで経っても待ち合わせ場所に現れることのない相手に、イルミは大きく溜息を吐き出した。
「だから言ったのに・・・・・・。が一人で歩いたら『攫って下さい』って言ってるようなものだって・・・」
一緒に旅をするようになってからは片時も離れたりはしなかったが、やはり仕事場に連れて行くわけにはいかなくて。
けれど今後はどうあっても連れて行こうと心に決め、イルミは待ち合わせのカフェを出た。
もちろんちゃんとコーヒー代は支払った後で。
雑多な街並みに眉を顰め、ポツリと呟く。
「・・・・・・殺っちゃおうかな・・・」
物騒な言葉に擦れ違った人が振り向いたが、けれどそこには誰の姿も見つけることが出来なかった。
当のイルミは瞬間的に飛び乗ったビルの上で、風になびく髪を手で押さえながら。
「決めた。を攫ったヤツは殺しちゃおう」
そうして彼は行動を始める。
幻影旅団VSゾルディック家
双方の争いが今まさに始まろうとしていた。
2004年6月12日