天使とピストル





片手に抱えた身体は思っていたよりも小さくて、思っていたよりも軽かった。
骨だけなのではないかと思わせるような腕。
サンダルが大きすぎて今にも脱げそうな足。
大きく開いた首周りから見えるハッキリとした鎖骨。
すべてが少女を形作っていて。
すべてが不釣合いに見えた。
茶色の熊だけがふわふわと太って抱かれている。



「・・・・・・・・・・キミ、ちゃんと食べてる?」



柄にもないイルミの一言に、少女は首をかしげただけだった。



3階の高さから飛び降りると同時に、今までいた部屋から騒ぎ声が聞こえだした。
そしてパッとつく庭中のライト。
ようやく主が殺されたことに気づいたボディーガードたちが血眼になって庭へ現れる。
それと共に舞い散る血。
赤く染まっていく庭を見ても、少女は表情一つ変えなかった。



「血は好き?」



少女は首を傾げる。



「嫌い?」



少女は首を傾げる。
その指が、文字を綴って。



きれい



その返答にイルミは珍しく笑みを表情に出して笑った。



「キミ、殺し屋の才能あるよ」



庭に立っている生き物はもうすでにいなかった。



「名前は?」



少女を片手に抱き上げたままイルミは歩く。
コンパスの長さだとか、急に襲われたときに対処が出来るからとか。
色々な理由をつけて。
明確な、理由があって。







「苗字は?」



少女は首をかしげた。



「苗字。名前につながるもう一つの名前。家族と一緒の」



少女は首をかしげた。



「ないの?」



少女は逡巡した挙句、小さく頷いた。



「ふぅん。まぁなくても困らないしね。別にいいんじゃない」



イルミは抱き上げた小さな身体を左腕に移し、言った。



「俺はイルミ。イルミ=ゾルディック」





「キミを望みどおりヨークシンシティまで連れて行ってあげるよ」





イルミの言葉に少女は初めて笑顔を見せてうなずいた。
腕の中のぬいぐるみが、鈍い色の瞳に月を写していた。





2003年2月17日