天使とピストル
窓枠に腰かけている少女の足元でサンダルがふらふらと揺れる。
主を殺されたと知らない家人とボディーガードはまだ騒ぎ出していない。
それを良いことにイルミはぼんやりと考えていた。
依頼を、受けるか否か。
この少女を、殺すか否かを。
「ねぇキミさ、ヨークシンシティまで行って何するの」
イルミの問いかけに靴を揺らしていた少女が顔を上げて指を動かす。
白い指だな、と思った。
いえにかえるの
「じゃあオークションに参加するわけじゃないんだ」
少女は首を傾げた。
「9月1日から始まるオークション。世界最大らしいけど」
少女は首を振った。
「でも家に帰っても俺に殺されちゃ意味がないんじゃない?」
少女は沈黙する。
・・・・・・指が、動く。
あなたのことはだれにもはなしません
「話さないっていうか話せないしね」
おかねもにばい、はらいます。それでもダメですか?
イルミは不機嫌に眉を寄せた。
いとも簡単に2倍額を払うという少女。
そんなに自分の仕事料は安く見られているのだろうか。
ポーカーフェイスの顔の下で感情が静かに動く。
「料金ってキミお金持ってるわけ?」
少女はかすかな沈黙の後、指を動かす。
おかねはもってません
その言葉にイルミが断ろうとした瞬間、再度少女が文字を綴った。
ぬいぐるみを左腕で握り締めて。
月光の中で、文字が光る。
だから、ねんのうりょくではらいます
「念能力・・・・・・?」
イルミの呟きに少女がうなずいた。
相変わらずサンダルは揺れたまま、熊のぬいぐるみは抱えたまま。
少女の淡い銀色の髪がほんの少しだけ風でそよいだ。
わたしののうりょくをみてから、はんだんしてください
窓枠からひらりと飛び降りて。
室内に音も立てずに着地した少女の身のこなしにイルミは目を細める。
音もなく、気配もなく、存在感もない。
この少女は本当に生きているのかと。
生物なのかと、一瞬疑った。
そして月が雲によって覆われる。
「――――――あ、もしもし親父? 俺だけど、依頼を受けたからソレ終わらせてから帰る。・・・・・・判った。じゃあ」
少女の靴がいまだゆらゆらと揺れていた。
2003年2月17日