天使とピストル
心臓を抉り出して潰すと、赤黒い血が噴出してイルミは不快そうに目を細めた。
最後の獲物、今回のターゲット。
屋敷にいる人間の中で邪魔な者を殺し、本命は見る影もなくぐちゃぐちゃに引き裂いて殺す。
それが今回の依頼内容だった。
目の前の性別さえも判別できない死体を見下ろし、イルミは己の手についた血を払う。
任務完了のベルを鳴らし、さっさと屋敷を後にしようとして彼はようやくその存在に気づいた。
細く開いた窓枠に立っている、一人の少女の存在に。
月光を浴びて立っている少女はとても小さかった。
ふんわりとしたスカートを広げ、シルエットからしてまだほんの幼女のような。
それを示すかのように片手には熊のぬいぐるみが握られていて。
イルミはスッと目を細める。
「キミ、誰?」
少女は答えない。
「この家の人じゃないよね。ターゲットに娘はいなかったし。メイドってわけでもなさそうだし」
少女は答えない。
「俺さぁ目撃者は殺さないといけないんだよね。だから大人しく殺されてくれる?」
少女は小さく首を横に振った。
それは、拒否。
「でも俺は殺すよ。一瞬で死ぬのと緩やかに死ぬの、どっちがいい?」
せめて選ばせてあげるよ、と言ったイルミに少女は再度首を横に振る。
その動きに合わせてぬいぐるみも揺れた。
イルミが不機嫌に顔を曇らせる。
そして再び口を開こうとしたとき、少女が熊を持っていない手を宙に上げた。
小さくて細い指が文字を描く。
あなたはころしやさんですか?
イルミはその問いにわずかに顔を歪めた。
表情の出ない顔には、あまり変化はなかったけれども。
「そうだけど。何、キミは喋れないわけ?」
少女が一つ頷いた。
「なら死ぬときも悲鳴をあげないんだ。静かでいいね」
少女は答えない。
けれどその代わり指を動かす。
わたしをころすまえに、わたしのいらいをうけてくれませんか?
イルミが無表情な中にも驚きを表し、少女の手ではぬいぐるみが揺れる。
わたしのいらいをせいこうさせたあとで、わたしをころしてください
月光の中にいる少女が自分の予想したよりも幼いことにイルミは気づいた。
おそらく、自分の下の弟よりも。
もしかしたら兄弟の誰よりも。
目の前にいる少女は幼いかもしれない。
「依頼って代金は払えるわけ?」
俺は安い仕事はしないんだけど、と付け足しても。
少女は一つ頷いた。
その幼い様子に、そのあまりの存在感のなさに。
ぬいぐるみの揺れる様子に、真っ赤な部屋を見ても逃げ出さない少女に。
イルミは確かに興味を抱いていた。
殺せるか、殺せないか、殺したいと思えるか。
ほんの少しの興味を。
――――――――――――だから。
「・・・・・・・・・依頼内容は?」
少女は小さく細い指を動かして文字を綴った。
わたしをヨークシンシティまでつれてって
2003年2月17日