桜蘭高校は、一に家柄、二に家柄。三四がお金で五に家柄。
学費も敷居も馬鹿高いくらいに高く、どこの異世界むしろ異界。
きっと日本中から金持ちの子息ご令嬢が集まっているのだろう。
ごくごく一部で勇者と呼ばれている一庶民、藤岡ハルヒはそう思っていた。
ザ・パーソンズ
「いや、そうでもない」
あっさりさっくりと否定したのは、ハルヒの属してしまっているホスト部の副部長。もとい影の支配者、鳳鏡夜。
この人は塩味だよなぁ、とハルヒは思う。
「確かに地方の名家からヘリやジェット機で登校してきている生徒もいるが、同じ都内でも桜蘭に入学していない金持ちもいる」
「そうなんですか?」
「令嬢ならロベリアに通うケースも多いし、家によっては代々通う学校を定めている場合もあるしな」
やはり金持ちは異界だ。何だか塩味のポテトチップスを食べたくなりながら、ハルヒは一個千円単位のケーキを口に運ぶ。
美味しいはずだし実際に美味しいのだが、何だかなぁと思う彼女はやはり生まれながらの庶民なのだろうか。
「有名なところでは、跡部財閥とグループだな。あの家は代々氷帝学園に通うしきたりになっている」
「跡部財閥? グループ?」
きょとんと首を傾げたハルヒが左右に揺れた。原因は横から食らわされたタックルであり、目線を下げればデフォルメされた花が舞っている。
にっこりと愛らしく笑顔を浮かべているのは、ホスト部マスコットキャラのポジションを不動のものにしている埴之塚光邦だ。この人はケーキだよなぁ、とハルヒは思う。
「けーちゃんはテニスで、ちゃんは声楽で有名なんだよっ!」
「・・・・・・?」
「・・・・・・光邦、それでは分からない」
注釈をつけて促してくれたのは、ホスト部の漬物石。ではなく、それほど重鎮として落ち着いた雰囲気を放っている銛之塚崇で、この人はせんべいだとハルヒは思う。
そしてわらわらと近づいてくる双子、小悪魔常陸院光&馨は唐辛子チョコだろう。甘くて辛くて外国産。いや、最後のは少し違うか。
「跡部財閥は、銀行やら証券やら株やら不動産やらで業界トップだよ。AFJくらいハルヒだって知ってるだろ?」
「あぁ・・・あの銀行の」
「グループは百貨店・デパート・スーパー・コンビニ、個人店からアウトレット、ブランド直営店まで何でもござれの商家。この不況のご時勢でも業績を伸ばし続けたやり手企業」
「へぇ・・・・・・」
「元は一つの財閥で、それを金融を跡部が、商いをが引き継いだって噂。うちは母さんの仕事柄家と付き合いがあるけど、鏡夜先輩のとこは跡部家と付き合いあるんじゃないの?」
一年生三人が仰ぎ見れば、塩味副部長は眼鏡を押し上げて頷いた。
「跡部家と家は、ほとんどの企業にとって避けては通れない名だからな。親しくしておいて損はない」
うわぁ、と呟いたのは果たして何人だったか。
「両家は代々氷帝学園に通うことを伝統とし、そこを治めることで生業の基盤を作る。氷帝学園は桜蘭とは違って家柄ではなく実力主義を教訓としているし、そこで得られる人間関係は後々にとても有効だからな」
「・・・・・・そうですか」
「特に、次期当主の跡部家ご子息と家ご令嬢は実に優秀だぞ? まったく、桜蘭にいないのが惜しいくらいだ」
含み笑いがどういう意味なのか、後輩三人は聞かない。先輩二人は聞くという選択肢もない。
しかしこんな質問をしてしまうのがハルヒがハルヒたる所以か、それとも庶民の図太さか思考回路か。
「じゃあ、その人たちも鏡夜先輩みたいに計算高くてメリット重視なんですか?」
ひいっという悲鳴はハルヒには届かない。ついでに副部長の目が細まったのにも気づかない。
「・・・・・・まぁ、おまえが俺をどう思っているのかは別として。次期当主は確かに素晴らしい手腕を持っているが、むしろトップに立つ者としての風格に溢れていると言った方がいいな。人を見る目があり、先見の明がある。俺としては敵ではなく味方にしておきたい人物だ」
「鏡夜先輩にそこまで言わせるなんて・・・!」
「恐るべし、跡部&家!」
わざとらしく驚愕してみせる双子に、素敵な笑みを浮かべてにじり寄る副部長。笑いながら見ている三年生を他所に、ハルヒは顎に手を当ててふむ、と頷いた。
「・・・・・・つまり、環先輩とは真逆の人物だと」
この小さな呟きを聞き取って、ホスト部の部長ことキング・須王環が騒ぎ出すのはすぐのこと。
泣き喚く彼を見ながら、この人はごてごての餡子だよなぁ、とハルヒは思うのだった。
主人公の部活が判明。合唱部のソプラノソロで全国区です。
2006年4月6日