今更ながらに気づいた。
俺は、間違っていたのだ。
麗しい午後のティータイム、自室にて立ち上がり独白する。
「俺は氷帝ではなくローゼンシュトルツ学園に通うべきだったんだ・・・!」
「え? あれって確か高等部でしょ? じゃあ今から受験勉強始める?」
「もちろんだ!」
の問いかけに当然のことながら頷く。
そうと決まれば勉強だ!
俺の求めるものがそこにある!!
ビリビリクラッシュメン
『ローゼンシュトルツ学園』とは、とある島国にある美しく名門校だ。
国を治める「使長」になるためのエリートを教育する特別クラス「シュトラール」があり、そこには厳しい条件をクリアーし、選ばれた者だけが在籍出来る。
夢と理想を抱き、好敵手と切磋琢磨し、頂点に立つべく己を磨く。
あぁ、なんて素晴らしい学園生活! ビバ・マイネリーベ!
「ローゼンシュトルツ学園ってどこにあるんだっけ?」
「ヨーロッパの大西洋に囲まれた美しい島国、クーヘン王国だ」
「うーん、とりあえず地図帳には載ってないなぁ」
「だったら島を一つずつ当たるまでだ」
とりあえず大西洋にある島全部に人をやって調べさせる。
でもって受験資料を手に入れてこさせる。その間に俺はせっせと勉強だ。
「だけど『使長』になるための『シュトラール』でしょ? 私たちがなるのは企業の長だし、国政を学んでもあんまり意味ないんじゃない?」
「どこの国に出店しても恥ずかしくない社長をを目指せばいいだろ」
「他国の議員と友達になっておいて損はないしね。じゃあオッケーオッケー」
「よし、決定!」
「でも確かシュトラールって男子生徒しかなれないんだよねー。それじゃ私がつまらないなぁ」
がムッと頬を膨らませた。
確かにシュトラールは全部男だったな。
「ならおまえは男装して入学しろ。それでシュトラールになればいい」
「あ、それ面白そう! じゃあ私、ポジション的にカミユ希望!」
「・・・・・・・・・それは無理だろ」
の言ったカミユとは、ローゼンシュトルツ学園のシュトラールの一人だ。
身長163センチの小柄で生まれつき身体が弱く、淡い金髪の線の細い美少年。
草花を愛する優しい性格をしていて、未来予知という不思議な能力を持っていることから屋敷から出ずに育てられた。
そいつのポジションをが勤めるだと? それは詐欺にも程があるだろう。
「えーでもカミユ以外だと、私に相応しいのはルーイしかないし」
「ルーイは俺だ! つーかおまえにルーイは似合いすぎだから止めろ!」
「景吾にもルーイは定番過ぎてつまらないんじゃない? むしろオルフェにしなよ。新しいキャラを開拓するのもきっと楽しいって!」
ルーイとは、フルネームをルードヴィッヒといい、これまたシュトラールの一人。
185センチの長身と藍色の長い髪を持ち、高貴な外見と生まれの美青年だ。
世界を意のままにするという野望を抱いていて、そのための通過点として学園に入学した気高き者。
俺がこいつを演じなくて誰が演じる!?
「俺がオルフェなら、親友役のエドはおまえだろ?」
「えーつまんない! あんな『いい人』を演じるなんてつまらないって! もっと腹黒をやらせてよ!」
「エドの出生はいろいろと複雑だから影もあるぞ。じゃあナオジはどうだ?」
「ナオジは美形だけど大人しすぎ!」
オルフェは、フルネームをオルフェレウスといい、金髪の優雅な青年だ。
身長182センチに、優雅な容姿と雰囲気をしていて、絵画を愛する美しき男。
エドはエドヴァルドといい、オルフェレウスの親友であり、奴の補佐をする良き理解者。
スポーツと音楽を好む明るい男だが、複雑な出生らしい。オレンジの髪が特徴だな。
ナオジはシュトラール唯一の日本出身者で、ストレートの長い黒髪を持つ。
父親からは国の未来が心配だということで寄越されたが、真意は別にあるんだよな。
ナオジ本人は知らないから、まぁ腹黒ではないだろう。手の中で踊らされている感は否めないが。
そんなことを考えていたら、コンコンというノックの音がした。
ドアを開いて忍足が顔を出す。そういや今日はうちに来るとか何とか言ってたな。
「何や白熱しとるみたいやなぁ。何の話しとるん?」
「俺はルーイだって話だ」
「ルーイ?」
「マイネリーベ闇王子」
「あぁ、ルードヴィッヒか」
納得した忍足は、すたすたたと歩いてきてソファーに座った。
それを見下ろして俺は高らかに宣言する。
「というわけで忍足。俺とは高等部からローゼンシュトルツ学園に入学する」
「は?」
「氷帝テニス部はおまえに任せる。好きにしろ」
「せやけど、跡部」
首を傾げて、忍足は言いやがった。
「ローゼンシュトルツ学園は現実にないやろ。『耽美夢想マイネリーベ』っちゅうゲームの中にしか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「判ってんだよコノヤロウ――――――っ!!」
「あははははははっ! 忍足ってば夢がなーい!」
そこらへんにあったクッションを投げつける。
俺様の夢を壊しやがって・・・! まだ15なんだ! 夢見てたっていい年頃だろ・・・っ!
ちくしょう―――!!
だってあの美少年シュトラールの中に俺も混ざりたかったんだ・・・・・・。
忍足がボロボロになって床に倒れると、どうにか俺の溜飲も下がった。
ひたすら笑っていたの手から紅茶を受け取って一口飲む。やっぱりティータイムはこうでなくちゃな。
窓から注ぐ穏やかな光と静かな空間の中で、気に入りのソファーに身を預け、優雅に時を過ごす。
これでこそ俺様に相応しい午後だ。
「せ、せやけど跡部・・・・・・『マイネリーベ』をクリアーしたんやな。あれ、結構難しいって評判やで。男を誘惑しながらも女友達を疎かに出来へんって」
「はっ! あの程度のゲーム、俺様の手にかかれば―――・・・・・・」
「まぁね、女の子と交流しておかないと悪口流されちゃうし。でもコツを掴んじゃえば楽だよ? むしろ笑えるところも多くてツッコミしまくり」
「・・・・・・・・・」
「キャラの台詞が面白いみたいやな。気障な言葉がめっちゃあるらしいけど」
「・・・・・・・・・」
「あるよーあるある! ルーイの告白エンディングとか悪いけどちょっと笑っちゃったもん。でも『美少年誘惑シミュレーション』の宣伝に恥じない作りだったよ」
「・・・・・・・・・」
「あーほらほら、景吾ってば拗ねないの。いいじゃない、ちゃんと全部エンディング見れたんだから」
「どうせ俺は一人もクリアー出来なかったさ・・・・・・」
に手伝ってもらえて全員クリアー出来たんだ。
ちくしょう。なんで俺の優秀な頭脳はゲームにだけ働かないんだ。
だけど、まぁ、このゲームは確かに色々と面白かった。
主人公を含めた女たちは、良家の子息である男キャラたちを落とすために策略を山ほど練るしな。
一生親友だとか言いながら妨害工作は当たり前。茶を飲みながら腹の探り合いは日常茶飯事。
友好度を下げれば男受けも悪くなるし、かといって上げすぎる、最後の最後で友達にキャラを取られたりする。
このゲームで俺はまた女という生き物に幻滅したぜ・・・・・・。
つーか落とされた男にも言いたくなる。
『この女はおまえを落とすためにものすごい工作をしていたんだぞ』・・・・・・・・・と。
「せやけど俺は、にはナオジをオススメやな。でもって跡部はルードヴィッヒや」
「えー何で?」
「そんなん決まっとるやろ。『マイネリーベ』は恋愛シミュレーションやけど、耽美ゲームでもあるからや!」
「あぁ、なるほど!」
忍足とが盛り上がる。
ちょっと待て、おまえら。俺を置いていくな。
「跡部がルードヴィッヒで、俺がオルフェイウスやろ。でもってがナオジ!」
「ゲーム中の耽美をそのままに再現!」
「『何を恐れているのだ? ・・・今の君は、まるで暗い洞穴で震えている兎のようだ・・・』」
の肩を抱き、忍足が囁いている。
そういやゲーム中にもあったな。こういうシーン。
女たちに恋愛を味わわせつつも、こうして男同士の怪しい関係を取り入れる。
一粒で二度美味しい。見事だぜ、マイネリーベ!
「ほら! 跡部もさっさとしぃや!」
忍足が急かしやがる。
・・・・・・・・・まぁいい。乗ってやるさ。完璧なルーイを演じてやろう。
俺はの顎をそっと掴み、瞳を覗き込んで熱く告げた。浮かべるのはもちろん闇王子の笑みだ。
「『ふっ・・・・・・相変わらず美しいな、おまえは。東洋から来た私の、お気に入りの小鳥』」
「――――――よっしゃ! これで春コミは頂きや! 完璧な衣装作ったるから一緒に出よな!」
「おい、忍足。この際だから向日にカミユやらせとけ」
「じゃあ宍戸がエド決定! ジロちゃんの役がないけど、この際だからヒロインの衣装でも着せておく?」
「せやったら滝がオーガスタやな! 女装やけどあいつら二人なら平気やろ!」
『めっちゃ気合入ってきたでぇ!』などと叫ぶ忍足はコスプレオタクだ。
まぁ趣味なんてのは人それぞれだから、何も言うまい。
俺に害がなければオールオッケーだ。
アーン? コスプレ? それくらいは広い世間を知るために経験しておいてしかるべきだろ。
そしてやるからには会場の視線を丸ごと集めきってやる。
耽美な世界で女どもの妄想を掻き立ててやるぜ!
そして俺はゲーム系同人誌を山ほどゲットしてみせる!(もちろん18禁だ!)
「じゃあ今年の春は、コミケデビューということで?」
「目指せ頂点!」
「よっしゃあ!」
三人で手を重ね合わせ、成功を誓う。
待っていろ、春コミ! 俺がおまえを盛り上げてやるぜ!!
(ちなみに実際の春コミはコスプレ禁止です。彼らの未来に幸あれ!)
2005年1月8日