・・・・・・・・・これは夢だ。
ビリビリクラッシュメン
「景吾、早く起きて! お目覚めの時間!」
ゆさゆさと揺さぶられる。
ふざけんな。まだ起きて堪るか。昨日は『爆裂天使』のDVDを見てて寝たのは朝の4時44分だったんだよ。
やっと手に入ったメグBOXとセイBOX。さすがだったぜ・・・・・・。
まぁオフィシャルのだからある意味つまんなかったけどな。やっぱここはネットで裏サイトを回って・・・。
「早く行かないと秋葉原が落ちるって。そうしたらエロゲーどころか景吾の潤いがなくなるよ?」
「それは嫌だ!」
反射的に跳ね起きると、ちょうど腹の上に乗ってると頭突きしかけた。
すんでのところで堪えたのは、さすが俺様の腹筋ってとこか。テニスで鍛えてるだけのことはある―――・・・・・・・・・?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、」
「なーに、景吾?」
「てめぇ、何で朝っぱらからそんなに露出してんだ?」
腹を見下ろそうと俯いたら、の胸の谷間が見えた。
それも制服のブラウスからチラっていう男の日常浪漫レベルじゃねぇ。オレンジ色のキャミソールワンピースは見せることを前提にして作られてやがる。
しかも何だこの超ミニスカートは。俺の上に跨ってるから青い下着が見えてるぞ、オイ。
膝上から足首までを覆うオレンジのロングブーツ・・・・・・いや、ウォーマーか? まぁこの際どっちでもいいが。
―――どっちでもいいが。
「・・・・・・どけ」
朝で、一応外見だけは外見だけは外見だけは美少女である女に乗られて、それで反応しないほど俺の身体はまだ隠居しちゃいえねぇ。
たとえそれがどんなに悪魔のように人を振り回して楽しんで迷惑ばっかかけるが相手だったとしてもな!
・・・・・・こういうときは直結する男の身体を恨むぜ・・・・・・。
それを知ってか知らずか――――――間違いなく知ってやがるは、顔だけは可愛い顔でにやりと笑いやがる。
「ご奉仕しましょうか? ご主人様」
「てめぇにヌかれるくらいなら自分でやる」
「素直じゃないなぁ。まぁ、それでこその景吾だけど」
ぴょん、とベッドからが降りると、その拍子にスカートがめくれてレースの下着が見える。
だから何で今日のおまえはそんなに露出してんだよ・・・!?
「制限時間3分ね。でないと本気で秋葉原が沈むから」
「アーン? 何だよ、秋葉が沈むって」
「言葉のとおりでしょ? やーね、景吾ってば寝ぼけてる?」
ブルーのカウボーイハットを被って、振り向くの腰元で銃のホルスターが揺れている。
「私たちはTOKYOの治安を守るのがお仕事じゃない」
残り2分47秒ね、と言って出て行った。
見回してみればここはいつもと変わらない俺の部屋だ。
だが、近くのハンガーにかけられている服は氷帝の制服じゃねぇ。
オレンジのファーのついた赤いジャンパー。
黒いピッタリとしたタートルネックでノースリーブのインナー。
太腿半分でいい感じに擦り切れた赤いパンツに同色のブーツ。
長すぎる黄色のマフラー。
これにでかい銃を収めるホルスター。でもってさっきのの服装と言葉を思い出してみれば答えは一つ。
俺は、昨日、見たぞ、確かに。
爆裂天使か・・・・・・っ!
何で俺が女キャラであるジョウの格好をしなくちゃいけねーんだよ!
つーか、おまえもどうせ着るならセイにしとけよ! あのセクシーにも程があるチャイナは萌えだろうが!
っていうか何か? 俺はこれからこのジョウの衣装を着て秋葉まで行かなくちゃいけないのか?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ツッコミどころが多すぎてどうしようもねぇ・・・・・・。
まぁいい、どうせ夢だ。夢だから成り行きに任せとくか・・・・・・。
『爆裂天使』とは、最近CATVで放映している近未来的SFアニメだ。
治安が乱れて無法地帯と化したTOKYO。
悪党や犯罪組織の非道が横行する中、彼らが名前を聞いただけで震え上がる、謎の美少女仕事人たちがいた。
彼女たちは潜入、諜報、ネットを駆使した情報収集と撹乱、国際シンジケートとのハードネゴシエイト、そして戦闘・・・。
各々の能力を駆使して困難なミッションに挑む、素性も目的も定かでない4人の少女たち。
混沌としたTOKYOを舞台に、都市の腐敗と謎の敵の陰謀に立ち向かう、"地獄から来た天使たち"が明日を賭けた戦いを繰り広げるという、ある意味典型的なSFアニメだが。
この服装からいって俺はジョウだろう。美少女仕事人の一人にしておそらく主人公。
普段は寝てるかホラービデオを見ているかだが、仕事となれば完璧にこなす凄腕のガンマン。
「・・・・・・・・・おい、」
バイクを運転しているコイツは、コスプレからしてメグだ。
ジョウに助けられたことから勝手に助手になり、メカには強いが頼りなくて敵によく捕まるお色気担当。(まぁ俺の中では、だが)
「なーに、景吾?」
「秋葉で何が起こってるんだ?」
ジョウとメグの仕事は、与えられた任務を遂行すること。
だからおそらく俺ともその仕事をこなさなくちゃならないはずだ。
銃なんか撃ったこともないが、まぁどうにかなるだろう。もいるしな。
「何かねー、20禁エロゲーを買おうとした男が年齢制限に引っかかって逆ギレしたみたい」
「そんなの警察に任せとけよ」
「それがさーどうやらヤクやってるらしくて。ほら、この前発見された『エーモエーモ』?」
「何だ、それ」
「目当ての二次創作キャラと妄想の中でセックスできるってやつ。リアル度が高いらしいって、確か景吾も欲しがってたじゃない」
初めて聞いたがめちゃくちゃ欲しいぜ!
「その薬でラリってるらしいから警察じゃ手に負えなくて私たちに来たみたい。まぁ脳天に一発ぶち込んで終わりでいいよね」
「・・・・・・殺していいのか?」
「警察への引渡しがあるから無理かも。じゃあ両手足に決めて終わりね」
バイクの風に流されながらが笑う。
大きくカーブを描いている高速から見る街並みは、確かに近未来らしくいつもの景色とはどこか違う。
そういや俺らはまだ15だからバイクの免許も取れねぇしな・・・・・・。
まさに夢だ、夢。
「つーわけで、景吾」
バイクのハンドルをまっすぐ前に向けたまま、が言う。
カーブなはずなのに、まっすぐに前に、向けたまま・・・・・・?
「お、おおおおおおおおおい前―――っ!」
「近道してね。いってらっしゃーい!」
壁にぶつかる瞬間に急ブレーキをかけてバイクは止まる。だが、慣性の法則に従って俺は急に止まれない。
よって当然のごとく放り出された。
高速道路から、秋葉原電気街へと。
「ふざけんな、あのヤロー・・・・・・次に会ったらマジでヌかせてやる・・・!」
高速から振り落とされて、だがビルをつたって着地した俺は、まさに夢の中の住人だ。これが現実だったらマジで死んでるぜ・・・!
のヤロー、夢の中だけあって現実よりパワーアップしてやがる! つーか普通、高速から人を落とすか!?
しかもこんなピンポイントど真ん中に!
「あぁっ! 赤い服に腰から下げた銃! あなたはまさか・・・っ!」
まさか何だ! 俺が何者なのか俺は全然知らねぇんだよ!
「TOKYOの闇に舞う天使・跡部景吾・・・・・・っ!?」
天使!? 天使! たしかに今の俺は爆裂天使のジョウコス中だ!
「じゃあ、あのお方はどこに!?」
「俺たちの萌え天使・ちゃんは!」
「あの方の姿を見るまでは絶対に逃げないぞ・・・・・・っ!」
あぁそうか、逃げないのか。じゃあ俺の代わりにあそこにいるラリ野郎をぶっ飛ばしてきてくれ。
どうやら俺たちの名はこのTOKYOじゃ相当に売れているらしいな。
さらにはこの秋葉原にいるオタク共のアイドルでもあるらしい。まぁあのコスチュームなら仕方ないが。
だけどアイツは悪魔だぞ! この俺を高速から振り落とす女なんだぞ!
こいつらにそれを教えてやりてぇ・・・・・・が、今は仕事が優先だ!
「おい!」
そこらへんでカメラを取り出しながらの登場を待っている男を呼びつける。
大手電気店の一階で、そこらへんにある品物を振り回しながら暴れているラリ野郎を指差して。
「あれが今回の騒ぎの原因に間違いないな?」
「は、はい! だけどまだ倒さないで下さいっ!」
「アーン? 何言ってんだ、てめぇ」
「あなたが倒しちゃったらちゃんの必殺技・シャイニングウィザードが拝めないじゃないですか!」
「いや、俺はブレーンバスターを!」
「いやいや、やっぱり有刺鉄線バットが!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アイツ、銃を下げてたくせにそんな決め技なのかよ。
シャイニングウィザードは片膝立ちの相手に向かって走りこみ、相手の膝を台代わりにして頭に膝蹴りを食らわす豪快な大技だ。
ブレーンバスターは抱え上げて背中から叩きつけるプロレスの基本技だな。つーかの場合だと頭から落とす垂直落下式な気がするが・・・。
最後の有刺鉄線バットは反則だろ! レフェリーが止めるぞ、オイ!
可愛い顔してエグイのは夢でも現実でも変わらない、か・・・・・・。
「いや、落ち着け俺。とにかく今は敵を倒すのが鮮血じゃなくて先決だ」
あぁ、くそっ! わざわざ口に出してるあたり十分落ち着いてねぇ! 大丈夫だ、跡部景吾。夢っていうのは大概都合よく出来てるものなんだ。
だからここは一つ、あのラリ野郎にカッコイイ決め台詞でもかまさないとな。
古今東西、正義の味方には決め台詞が付き物だからよ。
「オイ、そこの男!」
足は開き、右手は腰に添え、左手は抜いた銃を奴に向けてまっすぐに構え。
顎は少し上げ気味で、最高の笑みを浮かべた俺は言う。
「撃たれてみるか? 地獄で笑うラリ野郎!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜よしっ! 決まった!!
ラリ野郎はどうやら麻薬『エーモエーモ』のおかげで筋力もアップしているらしい。つーかそのヤク、俺にも寄越せ。
電池やら携帯やらビデオデッキや電話からを蹴散らかしてこっちへ向かってくる。
が殺しはナシって言ってたからな。大人しく足を狙うか。
俺は銃を両手で構えてラリ野郎に照準を合わせる。
その七三だか何だか判らん髪を避けて、細長い丸の眼鏡の間にある眉間も避けて。
完璧にイッてる感じの目も放って、無様に開いている口も辞めて。
・・・・・・つーか勿体ねぇな、コイツ。普通にしてりゃそこそこのルックスしてんじゃねぇか。
それなのに20禁エロゲーを買おうとして年齢制限に引っかかって逆ギレとはな。情けねぇ。
情けねぇが・・・・・・・・・この、ラリ野郎。
どこかで見たことのある顔なのは気のせいか・・・・・・?
「天使さんっ!」
一瞬思考に気を取られた。
気がつけばラリ野郎のイッた顔が目の前にある。
これじゃ銃も間に合わない。
「――――――チッ!」
持っていた銃を手放し、膝蹴りを食らわせるために右足を一歩引く。
ラリ野郎の攻撃を半身で交わし、その勢いを利用して腹に蹴りを加えようと俺は地を蹴った。
が。
「新必殺技! ラストインプレッション!!」
そんな掛け声と共に、俺のすぐ近くにあったラリ野郎の首に何かが巻きついた。
オレンジ色のそれは・・・・・・あぁ、の足か。
そのままからしたら前、ラリ野郎にしてみれば後ろへ勢い良く押し倒すだなんて、まぁ。
足がギロチン代わりになるそれは、本気でヤバイ。ヤバイがのフォームは完璧だ。
オイ、。おまえ、今からでも女子プロレスに入門しろよ・・・・・・。すぐにチャンピオン間違いねぇ。
泡を吹いて失神したラリ野郎をハイヒールのブーツで踏みしめ、は肩にかかる髪を優雅に払った。
笑う顔だけはマジで美少女だぜ・・・・・・。
「天国へ、イかせてあ・げ・る」
両腕を組んで胸を強調し、グロスを塗ってふっくらとしている唇で言ったの台詞に、オタク共から歓喜の叫び声が上がる。
たかれるフラッシュに余裕でポーズをとる。・・・・・・・・・さすがとしか言えねぇ。
、おまえは間違いなく天使だ。『爆裂』天使だ。
現実でもこの格好をさせてコスプレ開場に連れて行けば、きっと同じ光景が見られるんだろう。
「・・・・・・・・・それより」
さっきから気になっていることを確かめるべく、俺はが踏んでいるラリ野郎の傍らに膝をつく。
ボサボサの髪を掻き分けると、泡を口から流している顔が出てくる。
の新必殺技(2000以上あるプロレス技を全部マスターする気か?)で眼鏡は跡形もなく壊れているが、それでも俺様には十分だった。
今は乱れまくっているが、いつもは流れるような髪。
今は白目を向いているが、いつもは涼しい目元。
今は鼻血を流しているが、いつもは形良く通った鼻筋。
今は泡を吹いているが、いつもはきつく結んでいる唇。
今はただのラリ野郎だが、いつもはストイックなコイツを俺は確かに知っている。
・・・・・・・・・同情を抱かずにはいられないぜ・・・・・・。
気を失ったままの肩に手を置き、心から俺は頷いた。
「おまえも立派な男だったんだな・・・・・・・・・手塚」
現実に戻ったら俺様の脾臓エロゲーを山ほど貸してやる。
だから泣くんじゃねぇぞ、手塚・・・・・・。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
耳障りな目覚まし音。それと共に揺さぶられる感覚。
「景吾、早く起きて! お目覚めの時間!」
の声が聞こえる・・・・・・・・・・・・・・・っ!?
慌て手に跳ね起きると、ちょうど腹の上に乗ってると頭突きしかけた。
すんでのところで堪えたのは、さすが俺様の腹筋ってとこか。テニスで鍛えてるだけのことはある―――・・・・・・・・・って。
「・・・・・・・・・制服を着てるな」
「そりゃそうでしょ? 今日は普通に学校じゃない。寝ぼけてまちゅか、けーごくん?」
「いや、いやいやいやいや、そうか、うん、大丈夫だ、俺は目覚めたんだな」
「・・・・・・・・・どんな夢見たの?」
眉を顰めるはメグのコスプレではなく、いつもと変わらない氷帝の制服を着ている。
そうだ、あれは全部夢だった。今思い返してみれば楽しい夢だったぜ・・・・・・。
「ねぇ、景吾。今日の放課後は秋葉原に行かない?」
ベッドから身軽に降りて、が言う。
「アーン? 何だよ、麻薬でラリってる野郎がいるから片付けるのか?」
「うーん、多分ラリってはいないと思うんだけど、この前意外な人を見かけたから、ちょっと聞き込みでもしようかと思って」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
何だ、アレか。流れ的にいってアイツなのか?
アイツで間違いないのか? っていうか、今の俺は本当に起きてるのか? まだ爆裂天使なままじゃないのか?
このままジョウコスしてバイクに乗って高速で振り落とされて手塚と対決しての新必殺技を観戦するんじゃないのか!?
・・・・・・・・・いや、まだ間に合う。そうだ、まだ間に合うぞ!
「!」
「なーに、景吾?」
「ソイツには俺が警告しておく! 慰みものも与えておく! 間違っても『エーモエーモ』で電気街を襲わせたりしねぇ! だからどうか男の名誉のために黙っててやってくれ!!」
「・・・・・・・・・『エーモエーモ』って何?」
「説明すると長くなる! とにかく俺に任せてくれ! 悪いようにはしねぇ!」
手塚は俺が真っ当な道に引きずり戻す! 何も店で年齢詐欺して買う必要はない。ネットを利用すればいいだけのこと!
手塚の家が文明開化してなくてパソコンがないのなら、俺様が代わりに購入してやる! エロゲーなんていくらでも貸してやる!
だから!!
「・・・・・・・・・よく判んないけど、じゃあよろしく?」
が首を傾げながらもそう言ってくれたので、俺はひとまず安心した。
手塚、おまえも安心しろ。これで犯罪者になることはねぇ。
俺もおまえも万々歳だぜ!
「・・・・・・・・・私が見かけたのは、立海の真田君なんだけど・・・」
そんなの呟きは、手塚へ渡すエロゲーを選んでいる俺には聞こえなかった。
まぁとにかく待ってろ、手塚。
おまえのその顔が崩れて元に戻らなくなるくらい凄いエロゲーを貸してやるからな!
2004年8月26日