今日も授業が無事に終了した。

「跡部は今日は準・正レギュラーのミーティングだっけ?」
「あぁ。おまえは中庭だったな」
「そうなのよー。これだけ日吉若日吉若って騒いでも、やっぱり諦めないでいてくれる人がいるみたいで」
「無理だって示してんのに想われるなんざ迷惑なだけだろ」
「好かれることは無条件で嬉しいじゃない? じゃあ校門に」
「40分後」
「Bye-bye, honey!」
「See you soon, lovery」

と別れ、テニスバッグを肩にかけて部室を目指す。
さすがに樺地を教室まで鞄持ちだけのためだけに呼び出すわけにはいかないからな。
俺様とて箸より重いものくらい持ったことがある。つーかラケットは箸より重いだろ。
まったく景吾ったらオバカさんなんだから★
ははは、ったくしょうがねぇなぁ。おまえが可愛いのが悪いんだぜ。
やだぁ、もう・・・・・・!

「ねぇ」
「アーン?」
「日吉若ってヤツ、どこにいんの?」

無意識のうちに返事を返してたら、会話が成立してやがった。
チッ! せっかく妄想の最中だったってのによ。誰だ、邪魔しやがったのは。
そんなことを考えながら振り返ったら。

「日吉若って、どこ?」

青学の一年レギュラー、越前リョーマ。
学ランを来たチビが、そこにいた。





ビリビリクラッシュメン





今日のミーティングは今度の部内練習試合のチーム分けをするためのものだ。
正レギュラー7人に準レギュラー7人。まぁレベルが同じになるように分ければいいだろ。
対戦は遣り辛い組み合わせにして、ダブルスはごっちゃにして応用力を見るのも手だな。
俺様にかかればこんなもの十分で終わらせてみせるぜ。
つーわけで今日のミーティングは終わりだ。解散。

「・・・・・・ねぇ」
「何だよ」
「日吉若ってまだ来ないの?」
「まだHRが終わって五分だからな」

だからとの約束の時間まで後35分だ。
アイツの許容範囲は誤差10分だからな。車でも呼んで待たせておけば多少は広がるが。
だけど俺様も早く帰って『牌からロマンス』をプレイしてぇんだよ。
さっさと琴絵に勝ってあのスーツを脱がしてぇのに・・・・・・。
なのに何で勝てないんだ!? 麻雀なんて頭脳の勝負だろ!? なのに何でこの俺がゲームごとき人工知能に負けてんだ!?
・・・・・・・・・やっぱりこのゲームものヘルプを頼むしかねぇか・・・。
樺地に言って撮らせた日吉の写真(体育着着用)もあることだし、交渉はスムーズにいくだろ。
よしよしよしよし! 今日こそイケる!

そこで俺は思い出した。今は部室前で日吉を待っている越前リョーマ。
そういやコイツには以前にが迷惑をかけてたな・・・・・・。
青学まで案内したのは俺様だし、一応言葉だけ謝ってはおくか。

「おい」
「何?」
「この前は悪かったな。が迷惑かけて」
「・・・・・・・・・」

この俺様が言葉だけでも謝ってやったってのにシカトか、このガキ。
いい度胸じゃねぇか。手塚のヤツ、躾を間違ったな。まったく、青学の先が思いやられるぜ。
あいつ、きっと子育てにも苦労するタイプだな。
特に娘ができた日には「パパはどうしていつも怒ってるの?」とか聞かれて影で泣くんだぜ。
同情してやるよ、手塚。息子ならまだ救いもあるんだろうが、如何せん娘じゃ・・・・・・。

「何でアンタがあの人のことで謝るわけ?」

越前リョーマが俺を見上げてそう言った。
――――――百戦錬磨の感が告げる。
ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待て。
まさかコイツ。

「おいおいおいおいおい! はそりゃ顔と頭と運動神経と家柄と手腕と礼儀作法と愛想と根性と器とテクニックとゲームの腕と慧眼と―――・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「とにかくほぼオールマイティに完璧なヤツだが、アイツだけは辞めとけ! おまえのことを思って言ってんだ! 悪いことは言わねぇ、今ならまだ引き返せる!」
「はぁ? アンタ何言って」
「俺の全力の忠告、むしろ願いだ! にだけは惚れんじゃねぇ!」

身の破滅を招くぞ、と続けようとした瞬間。



ぼんっ



「ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンアンアンアンアン」
「ネコ型ロボットなら金曜まで待て」
「ち、違う! 別に俺はあの人のことなんて何とも―――・・・!」
「あ、だ」
「えっ!?」
「バレバレだコルァ!」
「巻き舌かよ!」

マジか!? マジでコイツ、に惚れたのか!?
あんな好きになったら血も涙もなく遊ばれるだけの相手にか!?
日吉を見てみろ! いい見本じゃねぇか! ヤツはまだ落とされちゃいねぇけど、それも時間の問題だ!

「ちゅうか越前、ええツッコミやな」
「なんかキャラ変わってねー? まぁ俺たちは外見と中身のギャップなんて跡部とで慣れてるけどさ」
「コイツらは黙ってりゃ最高なんだけどな・・・」
「でもそれでこその跡部部長と先輩だと思いませんか?」
「ウス」
「楽しければ何でもいいやー・・・」
「来てたんなら声くらいかけろ、おまえら!」
「「「「来た」」」」
「「来ました」」
「行ってよし!」

いつの間にか来て見学してたらしい忍足や向日たち。
だけど今はそんなこと問題じゃねぇ! 越前リョーマをどうにかしねぇと!
天使な小生意気(のことだ)にわざわざ獲物を差し出して堪るかってんだ!

「・・・・・・・・・っていうか、何でアンタがあの人のことで謝るんだよ!?」
「幼馴染だからに決まってんだろうが!」
「それだけ!? 本当にそれだけ!? そこにヨコシマな感情は一切ないわけ!」
「あるわけないだろ!」
「あの人に欲情しないなんて、アンタ男じゃない!」
「あるって言ったら怒るくせに我侭言うんじゃねぇ!」

手塚のヤツ、本気で躾を間違いやがった!
何なんだ、このチビ! に惚れただけじゃなく、この俺様がに気があるだと!?
そんなことあってたまるか! 天変地異以上にあってたまるか!!



たしかに昔はそれなりに若気の至りというか恥というか過ちというような過去を共に体感したりもしたが・・・・・・。



過去だ、過去! 今さら掘り返したくもねぇ!
つーか抹殺だ! あんなもん!!
墓場まで持って逝くぜ・・・・・・!

「えちぜーん。跡部とは生まれた瞬間からの幼馴染なんやでー」
「えっ!? ってことはまさか幼い頃には一緒にお風呂入ったりして、それが果ては小学生、今現在まで続いてるとか・・・!?」
「続くかバカ!」
「うっわー、越前の思考回路も跡部並みじゃん」
「まさかまさか親同士が『じゃあいつか二人を結婚させましょうか』って言う前に、『俺、大きくなったらコイツと結婚する』『私もするー』とか訳も分からず言ってたとか・・・!?」
「い、言うか、バカ!」
「・・・・・・跡部のヤツ、今どもったな」
「ええ、どもりましたね」
「まさかまさかまさか部屋の窓が向かい合ってて、夜にはそこを越えて行き来をしたりして時には同じベッドで寝たりするとか・・・!?」
「俺様の家がそんなに狭いわけあるかバカ!」
「・・・一緒に寝るとこは否定しないんだー?」
「ウス」

外野、うるせぇ!!

「とにかく、おまえの敵は俺じゃねぇ! 日吉だろうがっ!」
「そうだけど、アンタも何か敵な気がする!」
「日吉で満足しとけ! 俺まで巻き込むな!」
「敵はみんな潰す! たとえそれが誰であろうとも!」
「おまえは戦闘物のヒーローか!」

ヒーローにしちゃ悪役過ぎる台詞を吐くな!
つーか何で張本人の日吉は来ねぇんだよ!?
アイツさえ差し出せば俺様はコイツのターゲットから逃れられるってのに・・・・・・!

「あ、日吉なら掃除当番です」

Oh My God!
仕方ない、俺。落ち着け、俺!
とりあえずの本性を暴露すれば、コイツも諦めがつくだろう。
そうだ、それが越前リョーマのためだ。

「おい、越前」
「何?」
は女のくせに男向け20禁エロゲーをプレイするんだぞ」
「・・・・・・」
「しかも攻略本もないのに難なくクリアーして全画像余すところなくちゃんと見てる」
「・・・・・・・・・」
「ゲームは格ゲーも落ちゲーもRPGも何でもござれだ。アイツをゲーマーと言わないで誰を言うのか俺は知らねぇ」
「・・・・・・・・・・・・」
「金よりは愛だとか言ってやがるが、それも今だけだ。将来的にグループを継ぐ身だから、愛よりは立場を取る」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「惚れたって振り回されて使い古されて、いずれはポイだ。本当に悪いことは言わねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「諦めろ。おまえはまだ若い。いくらだってやり直せる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「他の女を好きになれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

真摯な忠告に、越前が黙って俯く。
そうだ。コイツは若いし、家にだって縛られていない。
これからいくらだって自分の好きな道を選んで進んでいけるんだ。
だからこそ、今ここで俺たちの方へ越させるわけにはいかない。

「辛いだろうけど、分かってくれ―――・・・・・・・・・」



「あれ、越前リョーマじゃない」



Jeseus!
神は俺を見放した。つーか越前リョーマを見放した!
テニスコートの向こう側からこっちに向かって歩いてくる
時計を見てみれば今は約束の時間15分前。チッ! こんなことならさっさと車を呼んでおくんだったぜ!
あぁまったくてめぇは何でそう外見だけはいいんだ! もうちょっと性格に見合った容姿で生まれてきやがれ!
そうすりゃ世界はもっと平和でつまんないものになってただろうよ!

「どうしたの、越前リョーマ。氷帝に何か用事?」
「・・・・・・・・・」
「御口はどこに行ったんでちゅか? ここにいるってことはテニス部に御用?」
「・・・・・・・・・んたに」
「ん?」
「あんたに会いに来たんだよ!」
「あら本当? 何の用?」

俺は改めて越前リョーマが不憫だと思った。

「な、何の用って・・・・・・」
「用もなく来ちゃった? 無意識のうちに会いたいって思ってくれるなんて、素敵な恋の始まりだね。うわぁロマンティック!」
「!!」

俺はやっぱり越前リョーマが不憫で不幸で仕方ないと思った。
つーか、おまえそうズバズバと本心を衝いてやるな。見てるこっちが可哀想になってくるから。
向日や鳳なんざ眉をハの字にして堪えてるし、宍戸なんか目を逸らしてやがる。
恋愛映画が好きな忍足なんざメガネを外して涙を拭ってるしな・・・・・・。
ったく、女より男の方がロマンティストってのは本当らしいぜ。
それとも何か? がリアリストすぎるのか?

「・・・・・・・・・ねぇ」
「なーに?」
「20禁ゲームやるって、本当?」

恐る恐るといった感じで越前リョーマが聞く。
だけどはやっぱり男の恋心をメガトンハンマーで粉々に打ち砕いた。

「うん、本当。女の子のオトシ方ならバッチリ。よければ今度手解きしようか? 越前リョーマはどんな子がお好み?」
「・・・・・・・・・ア」

ンタみたいな人、という言葉が聞こえたような気もしたが。

「個人的にはやっぱり顔よりもスタイルを優先すべきだと思うんだよねー。足か胸か、ときどき腕フェチなんて人もいるけど、やっぱ人の好みは千差万別だし? 私的にはちょっとふっくらめの女の子がいいなぁ。男なら逆にちょっときつそうな感じで。その点、日吉若ならもうバッチリ!」
「・・・・・・・・・ゲーマーって聞いたんだけど」
「まぁそうかもしれないかな。新作ゲームはたいていプレイしてるし。でも買ってるのは景吾であって私じゃないよ? 景吾がクリアー出来ないのを手伝ってるんだもの」
「・・・・・・・・・愛より立場を取るって」
「私も一応グループの一人娘だからね。やっぱりそうなるのは当然の流れでしょ?  今どき女社長なんて珍しくないし、そのために小さい頃から帝王学も学んできてるわけだし?」
「・・・・・・・・・ポイ?」
「人生において出会いと別れはワンセット!」
「・・・・・・・・・ねぇ」

越前リョーマが、言う。



「何でそんなに日吉若がいいわけ・・・・・・?」



聞いていた俺たちの方が思わず狼狽してしまうような、そんな声。
を見上げる目は熱を孕んだ男のものだった。
それを受け止めて、は口を開く。



「だって、好みのタイプで尚且つ次男なんだもの」



今日のミーティングは明日に持ち越しだな。正レギュラーは言葉もねぇようだし、準レギュラーなんか光景にビビッて先に帰ってやがる。
日吉も今日が掃除当番でよかったな。心からその割り当てに感謝しておけ。
でなきゃこんなに馬鹿馬鹿しい騒動に巻き込まれてたぞ。それもまさに中心に。

「じゃあっ! 俺に弟が生まれて、でもって俺が家を継がなくてよいって親父に言われたら、俺のことも考えてくれる!?」
「その場合はお父様とお母様の誓約書も一緒に持ってきてね? あ、弟だっていう証明に戸籍謄本も必要かなー」
「分かった! 十月十日待ってて!」
「ハーイ! 楽しみに待ってるね。それまではまぁ日吉若一本ということで、楽しいライフをエンジョイしてるよ!」
「っ! さっさと親父に家族計画させてやる・・・・・・っ!」
「よっ! 若いね、越前南次郎!」
「今度会うときは俺がアンタの彼氏だから!」
「楽しみに待ってマース!」

そんなこんなで越前リョーマは去っていった。
あー・・・・・・悪いな、手塚。俺はやれるだけのことはしたつもりだ。
だけどおまえの躾が悪すぎたんだぜ。俺様はもう関係ねぇ。一切ねぇ。
それよりも問題はだ。

「おまえ、罪悪感は?」
「ちょっとある。まさかこんな展開が待っててくれるとは思ってなかったし。んー・・・でも」
「でも?」

聞き返して見れば、が笑っていた。
性格に見合わない、周囲を振り回すだけの余計な美貌で。
俺でも滅多に見ることはない、とろけそうな顔で。



「そこの部室の影にいる日吉若がちょっとは動揺してくれたみたいだから、そっちの方が嬉しいかな」



言った直後、走り出したが部室の影に消える。
つーか日吉、来てたのか。だったらさっさと出てきやがれ。
おまえがいないせいで俺様があのガキの標的になっちまったじゃねぇか!
・・・・・・まぁ、出てきづらい気持ちが分からないでも・・・むしろ完全に分かったりもするがな・・・。

「ねぇねぇ日吉若! 嫉妬してくれた!?」
「・・・・・・誰がするか」
「うっわー相変わらず生意気! でもそこが好き!」
「・・・・・・・・・」
「嫌われるためになら愛想よくもなってみる? ふふ、でもそんなことじゃ私の愛は変わらないんだなー。むしろ私のために自分を変えてくれる日吉若に大感激!」
「・・・・・・あんた、本当にどうしようもないな」
「馬鹿な子ほど可愛い? 嬉しい褒め言葉ね!」

と日吉の声が聞こえてくる。
越前リョーマ。おまえ、これを聞いててもの彼氏になるとか言えるか?
そうしたらおまえは勇者だ。おまえをRPGのヒーロー名に入力してやる。
魔法使いの座は譲らねぇけどな。

「跡部ー」
「アーン?」
「ミーティング、明日に持ち越し?」
「あぁ。遅れんじゃねぇぞ」

向日や忍足たちを帰らせて、開けたが結局入らなかった部室の鍵を閉める。
まだ聞こえてくると日吉の声も、後10分ってところか。
俺はそう計算して、取り出した携帯電話のボタンを押した。

「俺だ。10分後に迎えに来い」

運転手にそれだけ伝えて、通話を切る。
今日も散々な一日だったぜ・・・・・・。
これもすべて性格と外見の合っていないの所為に違いねぇ。
まぁ、だからこそ幼馴染みもやってるんだけどな。
アイツがまともになったりなんかしたら、世界が退屈すぎてつまらない。

「その点は景吾も一緒でしょー?」

聞こえてくる声を無視するべきか、反論すべきか。

「『牌からロマンス』、楽しみだねー」
「俺たちは最高だぜ、!」

とりあえず、今日も普通な一日だった。





2004年6月15日