とりあえず机が見えなくなるほどの菓子を用意した。
鞄の中にはテニスラケットじゃなくペットボトルの飲み物を敷き詰めてきた。
そこらのコンビニで買えるものから未発売のものまで何でも来いだ。
いざ、勝負!

「跡部の手作りフルーツケーキがいいなー」
「・・・・・・オラ、食え」

丁寧にラッピングまで施してあるケーキを取り出せば、は笑顔を浮かべてリボンを解きにかかる。
そうだ、そうやって笑ってろよ。そうすりゃ日吉もすぐに落ちるだろ。
いい加減に俺の平穏の日々を返しやがれってんだよ。





ビリビリクラッシュメン





昼休み、いつもは屋上でテニス部の奴らと食ったりもするが、今日は教室で食べることにした。
アーン? 何故かって? そんなのに用事があったからに決まってんだろうが。
じゃなきゃこの俺様がこんな女のために菓子やらジュースやら日吉のデータ写真やら用意するかよ。
やっぱり世の中はgive&takeが基本だからな。

「やっぱ跡部の作るケーキは美味しいねぇ。唯一の取り柄ってやつ?」
「唯一だ? テメェそれは俺様の素晴らしさを知ってていってんだろうな?」
「跡部様の素晴らしさはどうだか知らないけど、このケーキを最初に作ったときに失敗して泣いてたのは覚えてるよ?」
「ゲームの攻略法を教えて欲しい」
「この日吉若、可愛いねぇ! やーもうラブリー!! いいなぁ、やっぱ欲しいなぁ。今度はデートに誘ってみようかなぁ。行きたいところとかって何処なのかなぁ」
「今日中にデータを送る」
「この前の『高校教師』はクリアーしたでしょ? お宝映像もバッチリ見れたし保存も出来たし。それともセーラー服よりブレザーが見たいって? 日吉若に学ラン着せてみたいなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・手塚に借りとく」
「えーじゃあ『貴方とフライト』? あれはいきなり声が出るのがビビるよねぇ。まぁ一番の見所シーンはかなり精巧に作られてるから美味しいけど。あー日吉若にパイロット服とかも着せてみたい! むしろ軍服とか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・忍足に用意させとく」
「他は『家族計画』? あれは娘にも手を出せる裏技があるんだよねぇ。でもそれって犯罪だってば。まぁ自分と似てる娘を相手にっていうのはマニア向けだけどねー? あ、でも日吉若の子供なら可愛いんだろうなぁ! すっごい照れ屋で無愛想ででも可愛くって! って違うよ、それじゃ日吉若のまんまだし!! あはは、本気でゲームになりそうだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その裏技、聞いてねぇぞ」
「あ、本当? じゃあ後で教えてあげるし。ねぇゴクーリのグレープフルーツある?」
「ホラよ」
「ありがとう! あと跡部が最近買ったゲームっていうと・・・・・・・・・『専属メイド』? 紺のクラシックワンピースに白のエプロンとヘッドドレス。あれはもう男の理想を具現化したような話だよねー。やっぱあれ? 『ご主人様』とか言われてみたいの? 私も言われてみたい! 誰にってそれはもちろん日吉若にね!! あははははははっ黒の燕尾服で跪いてもらいたい!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのゲーム、一昨日買ったばっかなのに何でオマエが知ってんだよ!?」
「世の中は広くてせまーい! 跡部の部屋も広くてせまーい! ましてや金庫の暗証番号なんて言わなくてもわかーる!!」
「――――――――――――――――――っ!!!!!」

三日に一度の割合で思うことを今も思った。
俺にプライバシーはないのか!?

「跡部こそ私の部屋の裏道知ってるくせに」
「それとこれとは話が別だ!!」
「ノンノン、ミンナ一緒デース」
「オマエは誰だ!!」

ちくしょう、やっぱつぶつぶいちごポッキーじゃ足りやしねぇ・・・・・・っ!
山になってる菓子の中から適当なものを取って開ける。ついでにテニスバッグから果汁100%のオレンジジュースも取り出した。
カルシウム入り飲料を買ってくるべきだったか・・・・・・・・・。
牛乳は冷たくねぇと美味くないんだよ!

「で、何?」
「あぁ?」
「ゲームの攻略法を知りたいんでしょ? 一体何のゲームでつっかえてるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「跡部?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

言うべきか、言わざるべきか。

コマンド:言う
言わなければ一体何のためにこの大量な菓子と飲み物を用意したんだ?
一体何のために昨日キッチンでフルーツケーキを焼いてきたんだ?
一体何のために真っ黒に焦がしたフルーツケーキをもう一度焼きなおしたんだ?
一体何のために日吉なんかの写真やデータを集めまくって、わざわざアルバムとかにまで貼り付けたんだ?
一体何のために手塚に学ランを借りるんだ?
一体何のために忍足に軍服を作らせるんだ?
そう、これも全部「ゲームを攻略したいがため」!

コマンド:言わない
言ってしまったらまず間違いなく目の前のに大爆笑される。
間違いなく俺様の評判が地に落ちる。
間違いなく忍足や向日、しまいには宍戸まで笑いやがる。
間違いなく他校にまでその話が伝わって噂される。
間違いなく言い寄ってくる女の数が減る。
間違いなく俺の沽券に関わる。
そう、これも全部「ゲームを攻略したいがゆえに」!

「三分待て」
「ラジャー」



チッ
チッ
チッ
チーン

手首につけているロレックスの腕時計が三分を知らせる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・腹を括れ、跡部景吾。
いくらが人のプライバシーを侵害する素晴らしい女だとしても、それは俺とて同じこと。お互い様だ。幼馴染だ。
そう、幼馴染だ。おそらく仕事で忙しいお互いの親以上に一緒にいる時間は多いだろう。
が俺の金庫の暗証番号を知っているように、俺もの部屋に通じる裏道を知っている。
お互い様だ。一蓮托生だ。
――――――――――――――――そう、一蓮托生!
死ぬときは一緒だぜ、



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・氷室先生の攻略法を教えて下さい」



「え?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜だからっ!!」

ダンッと手を突いた机の上から菓子が零れ落ちる。



「氷室零一の落とし方を教えろって言ってんだよっ!!!」



<ヤジウマ忍足さんによるガイド>
『氷室零一』ちゅう奴を知らへんヤツのために解説したるわ。
フルネームは氷室零一(ヒムロレイイチ)。1975年の11月6日生まれ、今は27歳やな。
身長は188センチ、体重は70キロ。麗しい容姿のナイスガイや。(侑士、それ死語だって。ウルサイわ、岳人)
「はばたき学園」ちゅうとこで数学教師をしとる。でもって吹奏楽部の顧問やな。
趣味はピアノ演奏とドライブ、試験問題集作りっちゅうのもあるみたいや。
休みの日には知り合いのマスターの喫茶店でジャズピアノを演奏しとるらしいで。一度行ってみるのもえぇんちゃう?
あと色々とデータもあるんやけど、まぁこれくらい押さえとけばえぇやろ。

ん? 全然関係ない知り合いやのに何でそないに詳しいかって?
そんなん公式ガイドブックに書いてあったからや。



ときめきメモリアルGirl’s Sideの。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・氷室って、氷室先生?」
「あぁ、そうだ!」
「あの、通常は男主人公がいろんな女の子に目移りして、だけど一人にしか告れなくて、でも今回のGirl’s Sideだといろんな男の子にモテまくって逆ハーレムを形成できるという素晴らしいゲームに出てくる氷室先生?」
「そうだ」
「葉月珪君じゃなくて?」
「そいつは後だ」
「姫条まどか君じゃなくて?」
「そいつも後だ」
「鈴鹿和馬君でもなくて?弟の尽君でもなくて?」
「あぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・氷室、零一先生?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ」

沈黙が、教室を支配する。



チッ
チッ
チッ
チーン

の手首についているハミルトンの腕時計が三秒を知らせる。
その間もずっと教室は沈黙したままで、目の前のは固まったように俺を凝視していて。
その睫の長い目が、うっすらと細められた。
――――――――――――――――――げ。



「あはははははは!」
「〜〜〜笑うなぁっ!」

放課後、樺地に聞いたところによると、このときのの笑い声と俺の叫び声は学校中に響いていたらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・泣きそうだ・・・・・・・・・。



バンバンと机を叩いて涙を流して思いっきり笑いまくっている
ちくしょう! こんなことなら言うんじゃなかったぜ!! オマエを幼馴染だと思った俺が馬鹿だったんだっ!
それに机を叩くな! ゴクーリが倒れるだろうが! 菓子が落ちるだろうが! 食べ物を粗末にしてんじゃねぇよ!!
つーか廊下の奴ら! わざわざ人のクラスまで何があったか見に来るんじゃねぇ!!
特に忍足と向日! テメェら後で世界100周走らせてやるから覚悟しとけ!

「・・・・・・・・・・け、けいご・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
「――――――――――――アーン?」
「いやもう私、ここまで景吾の・・・ううん、けいちゃんのことを好きだと思ったことはなかったよ。あぁもう幼馴染でよかった!」
「何で呼び方が幼稚園当時に戻ってんだよ」
「さぁ、けいちゃん、何でもお聞き!氷 室先生へのプレゼントから合宿のときの対応の仕方まで知りたいことは何でも教えてあげるよ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「オッケーオッケー! まず服装はピュア系かスポーツ系で。あんまりセクシー系とか狙うと逆にお説教されちゃうから注意ね」
「何でだよ。男ならセクシー系が基本だろ」
「それはけいちゃんだからでしょう。日吉若だったらきっと清純派なお嬢様とかー・・・あとはちょっとお姉さん系? 今度一緒に服とか買いに行って選んでもらおうかなぁ。『私を貴方色に染めて』って!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今、『それイイ』とか思ったでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、後はどうすんだ?」
「最終攻略には学力150・運動120・気配り120以上のバロメーターが必要なんだけど、それ以外に芸術も高得点を取っておくとかなり楽になるよ。そのためには吹奏楽部の練習に必死で参加することだねぇ。一回でも部活を休んだら即行で退部だから気をつけて」
「一回でもか? ・・・・・・厳しいな」
「あと他の男の子には絶対に構わないこと。構ってる余裕があったら氷室先生に全力を注いだほうがいいよー。でないと彼は落ちない」
「面倒だな」
「だからこそ落としたときには最高の喜びが得られるってものよ!」

そんなわけでサクサクと攻略法を述べていく
そしてそれを出来のいい脳みそに刻み込んでいく俺。
まったくこういうときは高性能に生まれてきた自分に感謝するぜ。
廊下からの視線はいまだしつこく向けられているが、教室内の視線はもうほとんど感じられなかった。
まぁコイツらは慣れてるからな。俺とのやり取りに。
三日に一度の割合でこんなことを繰り返してて慣れない奴は順応性が足りないとしか言い様がない。
例を挙げるなら忍足と向日だな。
アイツら、大声が上がるたびに隣のクラスまで見に来てんじゃねぇよ。まったく。

「なるほどなるほど。だから今回はこんなに貢物が多かったのかぁ。だっていつもはお茶と夕飯くらいだもんね」
「うるせぇ。行き詰ったんだから仕方ねぇだろ」
「いいよー。この日吉若アルバムで手を打ちましょう! ちなみに葉月君とかは別料金だからそこのところもヨロシク!」
「葉月と守村、鈴鹿・姫条・三原・日比谷・・・・・・・・・あと他にいたか?」
「天之橋理事長を忘れちゃダメでしょ」
「36歳のジジィだろ」
「榊先生に言っちゃうよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が悪かった」
「あとは花椿さんと蒼樹君。まぁこの二人は一通りクリアーし終わってからのほうがいいかもねぇ。まぁ景吾にそれが出来ればの話だけど」
「アーン?俺様を誰だと思ってんだ?」
「ゲームを数こなす割りに上達しない跡部景吾くーん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「反論は?」
「アリマセン」

と・に・か・く!
俺はこうしてから無事に攻略法を教わることが出来た。
手塚、学ランは後日借りに行くから用意しとけ。
忍足、軍服は三日待ってやるからその間に作り上げろ。
それと日吉、の買い物はそれはそれは疲れるが、その古武術だか何だかで得た体力で頑張ってつきやってやってくれ。
時間自体はそれほど長くはないから平気だろ。

ただ、ものすごく精神的に疲れるけどな!

オマエがブランドショップの店員に跪かれてもその無表情を貫くことを祈っている。
達者で暮らせ。



さてと、家に帰ったら即行で落としてやるから待ってろよ、氷室零一!





2003年9月28日