「こーんにーちはっ日吉若! お昼ご飯でも一緒にいかがですかー?」
「結構です」
「今日のお弁当はハンバーグに鶏のカラアゲ、玉子焼きとプチトマトに緑黄色野菜もたっぷり! あぁもちろん安心して! ちゃんとカロリーも栄養価もバッチリ計算してきたからね!」
「・・・・・・・・・結構です」
「もちろん冷凍商品なんて使ってないよ! ふふふ、朝五時起きで頑張っちゃた。これも全部日吉若のため! ひいては日吉若の喜んだ顔を見て嬉しくなる私のため!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ホラ、だんだんと料理も上達してきたと思わない? 全部ちゃんと毒見させてから持ってきてるから大丈夫だよー? あ、これがおしぼりね。ハイ、いただきまーっす!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ダーリン、あーん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰がするか」
「ダーリン、あーん?」
ここ最近、二年某クラスでは楽しい昼食風景が見られるらしい。(鳳長太郎談)
ビリビリクラッシュメン
「跡部、今日のハンバーグどうだった? 美味しかった?」
「アーン?まぁまぁだったんじゃねぇの」
「具体的に述べてよね。次へのステップにならないじゃない」
「ケチャップが濃かった」
「やっぱ醤油を使うべきだったかなー。日吉若って基本的に和食党らしいから、今度和食の料理教室にでも通おうかと思って」
「シェフに習えばいいだろ」
「うちのシェフはフレンチ基本なのよ。やっぱ日吉若のお母様に習うしかないかな」
「・・・・・・・・・・オイ」
「この前偶然お会いしてね。同じ氷帝で親しくお付き合いさせて頂いてますって言ったら『こちらこそ、あんな息子だけどよろしくね』って言われちゃった! ふふふ、これでもう親公認!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「お父様にもお会いしてね、護身術を披露したら筋が良いって。今度道場の方へもいらっしゃいって」
「オイ」
「お爺様もお婆様も私のことを気に入って下さったみたいで。ふふふー。ふふふふふふふふふふー」
「・・・・・・・・・」
「前途洋・洋っ!!」
日を増して変わりつつある状況にいい加減ため息もつきたくなるってもんだ。
そんな俺の心情にも関わらずに、は頬を薔薇色に染めて話し続ける。
おい、待て。オマエはそれ以上話し続ける気か。
・・・・・・・・・まぁいい。つぶつぶいちごポッキーで我慢してやる。
「結局ね、日吉若もちゃんと食べてくれたんだよ。やっぱ味付けは薄めの方がいいみたい。うん、ふふふ。嬉しいなぁ」
「・・・・・・・・・よかったな」
「跡部が味見してくれたおかげだよー。ありがとう!」
「毒見とか言ってなかったか、オマエ」
「毒見も味見も食べることに変わりナシ。跡部のお母様にも『せいぜい利用してやって』って言われてるし」
「・・・・・・あのババァ」
「景吾、おば様とソックリね」
「・・・・・・・・・」
と俺が似ている(忍足談・絶対認めねぇ)
↓
俺とババァが似ている(談・本人の前では死んでも言えねぇ)
↓
それすなわち、とババァが似ている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
さ・い・あ・く・だ!!!
まて、まてまてまてまてまてまてまてまて。
落ち着け、俺。落ち着け、落ち着くんだ。
誰がと俺とババァが似てるって言った? 忍足が? か?
ちくしょう、忍足のヤツ、次会ったら絶対にシメてやる!
見てろ、学校10周ぐらいじゃ許さねぇ!!
「・・・・・・。オマエあのババァと何処で会った?」
「汐留のソルシュ。ティータイムのバイキングとセットで」
「そんなとこに出没してやがるのか。どうりで家で見ねぇと思った」
「凄かったよ。ケーキ全種にスコーンと飲茶、並べられてたものは全部食べてたもの」
「どうせオマエも食ったんだろ」
「まぁね。カマンベールチーズケーキが美味しかったよ。今度一緒に行く?」
「考えといてやる。誰と行った? まさか日吉か?」
「まさか。お義母様とお義婆様とよ」
日吉・・・・・・・・・っ!
強く生きろ、日吉。
俺への下克上は無理だが、きっとへの下克上も無理だろう。
そしてオマエの母親と祖母への下克上も無理だろうな・・・・・・。
武家の女は概して気が強く、そして何故だか革新的だ。どうせ無理なら大人しくもう諦めろ。その方が楽だ・・・。
このと生まれてこの方15年も一緒に過ごしてきた俺が言うんだ、間違いない。
外堀から埋めてやがるぞ、この女。
オマエの知らないうちに家族に取り入って―――――いや、が自力で魅了してるんだからこの言い方は正しくないが―――――それからオマエを落とす気だ。
悪いことは言わない、落ちとけ。
でないとオマエのこれからの人生は真っ暗だぞ。
なにせは俺の母親とソックリらしいからな!
(この際俺とあのババァが似てるという発言は置いておく)
「お弁当策略も成功を収めたことだしね、そろそろ次のステップへ進もうと思って」
「・・・・・・次のステップ?」
「そう! 交換部誌をしようかと思って!」
「・・・・・・・・・鴻羹憮弛?」
「そう! 交換日記じゃさすがの日吉若もやってくれなさそうだから、ここは一つ彼にとってテニス部でも身近な部誌にしてみました!」
「・・・・・・・・・」
「まぁ交換日記もやらせる自信はあるんだけどさ? やっぱり一応旦那の意見も尊重しておかないと後々で家庭内不和を引き起こしちゃいそうだし、トラブルは未然に潰すに限るしね!」
「・・・・・・・・・オイ」
「部誌だったらその日にやったことを書くだけだから日吉若にも出来そうだし、何よりこれがあれば一日日吉若を監視してなくても済むし!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ストーカーになる気もないし、浮気ぐらいはまぁ平手と投げと締めと調教で許すとしても、やっぱり好きな人の行動っていうのは把握しておきたいものだもの! そう思わない?跡部」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あぁでも跡部は思わないかぁ。うん、そうだね、思わないかもねぇ。だってまだ恋愛もしたことないもんね? あぁでも初恋は幼稚舎のとき担任だったナオコ先生だったっけ。先生、元気かなー旦那とラブラブしてるかなー」
「テメェの初恋は幼稚舎の園長だっただろうが」
「そうなのよ。お金を持ってる人に惹かれるだなんて私もまだまだ青かったわぁ。だってお金なら自分で稼げばいいんだもんね。やっぱ世の中愛よ、愛!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「というわけで、日吉若は格好の獲物!」
下手に生まれた頃から一緒にいると互いのほとんどを知ってるから手に負えねぇ。
しかも幼稚舎の年小組からこのかた12年。
毎年クラス替えしてんのに二回しか別のクラスになったことがないってのは何でだ!?
(確率が低すぎるだろうが! 一学年何クラスあると思ってんだ!)
仕組まれてんのか!? 仕組んでんのか!!
誰だ!? 校長か!? か!? それともうちのババァか!?
心当たりが多すぎて判んねぇよ!!
つーかオマエもツッコミの入れ場所をもうちょっと絞りやがれ!
全部にツッコミ入れるにはつぶつぶいちごのポッキーくらいじゃゲージが足りねぇんだよ!!
「というわけで、テニス部の部誌ちょうだい?」
「誰がやるか。そこらの文具店で適当なものでも買ってこい」
「とりあえずは形から入らなくっちゃ! 親しみやすいものの方が日吉若も安心して書けるでしょ?」
「ザケンな。テニス部の部誌がどこで作られてるか知ってて言ってるんだろうな?」
「リサーチはすべての基本! 紙は京都の玲紙院総本家の特注で、カバーは鹿児島の山越製作所。でもって紐は愛染の一メートル1200円!」
「ハンマープライス」
「『看護婦の情事』の攻略法でどう?」
!!!!!!!!
「な、ななななななななななななんあななんでオマエが知ってんだよ!!!???」
「あははははははははははははは甘いわね、景吾! このを舐めるでないわ!」
「さてはババァだな! 、テメェ俺のいないときに勝手に部屋入ってんじゃねぇよ!」
「景吾こそ私の部屋に勝手に入って少女漫画を読み散らかしてるくせにー! あ、『ウルトラマニアック』の新刊でたよ?」
「あ、じゃあ借りる。――――――――――って違ぇ!!」
「看護婦はーユカリちゃんとサキちゃんは簡単に落とせるんだけど、ナナさんが難しいんだよねぇ。でもちょっとテク使えば一発なのに。なのに景吾ってばまだカナさんで止まってるしー?」
「誰だナナって!」
「あら、あららららら? ふふふふ、ハンマープライスはどうやらもっと安値がつきそうじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今度の練習試合の特等席チケット」
「ハルミさんの肌は珠のように白く滑らかで、だからこそ黒レースの下着が似合うのよねぇ・・・・・・」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
俺の20禁エロゲーのためだ! 許せ!!
「来週火曜二時間目の保健室権! す巻きの日吉もセットでつける!!」
「商談成立!!」
こうして今日の放課後と来週火曜二時間目の予定は決定した。
俺様の有意義な私生活のために犠牲になれるんだ。光栄だろう、日吉。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
無力な俺を許してくれ!
この世には敵に回したくない人物というのもいるものだ。
俺がそう悟ったのはと初めて出会った0歳のことだった。
2003年7月8日