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朝起きたら、男になってた。





天地無用!(case00:天災は彼女によって運ばれる)





朝七時、目覚ましが音を立てて鳴らすのを止めた。
なんかいつもと音が違う? ぼんやりとそんなことを考えながら目を開けると、何故か自分の部屋で寝たはずなのに別の部屋にいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこだよ、ここ。
たしか昨日は普通に部屋で寝たはずなのに。なのに何で。
周囲を見まわせば、システムデスクとパイプベッドは私の部屋と同じもの。
だけどカーテンが違う。私の部屋は黄色だけど、この部屋は青。 だけど模様は同じ。
なんか、なんかすっごい嫌な予感がする・・・・・・。
ビクビク怯えながらもう一度部屋の中を見まわすと、明けっ放しのクローゼットに制服がかかってるのが見えた。



私にめちゃくちゃ似合わない青学セーラーじゃなくて、黒の学ランが。



「・・・・・・・・・またママ上のお遊びかな・・・」
それにしては手が込んでるな、と思いながら立ちあがると、何だかいつもと何かが違うことに気づいた。
・・・・・・何だ?
何か違う。何かちょっと違う気がする。
けれどそれも鏡を見て理由が判った。
そう、身長だ! 身長がいつもよりちょっとだけデカくなってる気がする。
―――――――――でもって、鏡を見てもう一つ新たな事実に気づいてしまった。



胸が、ない!



な、ななななななななんで!? た、たしか昨日まではちゃんとあったはずなのに!
一応Cカップはあっただろ!? でもってママ上特選の天使のブラとかしてただろ!
な、なのになんで!?
パジャマ代わりにしてるTシャツを脱げば、そこにはまるで男のように平らな胸があって。
でもって程よく筋肉がついていて!?



下半身については以下略!!



ど、どどどどどどどどーどどどど、どどどどーどど?
「ママ上――――――――――っ!!」
後から考えればめちゃくちゃご近所迷惑なほどの大声で階段を飛び降りて、キッチンへと駆け込んだ。
フライ返しを持ったまま振り返るママ上はピンクのフリフリエプロンがこの上なく似合っている。
良し! ママ上は普通だ!
「あら。おはよう、圭君」
「お、おおおおおぉぉぉおおぉぉぉおはよ」
「どうしたの、朝から真っ青な顔して」
心配そうに寄ってくるママ上はいつものママ上だ。
ということはこれは現実。そう、大丈夫だ。
ママ上が普通だから大丈夫だ。イエス現実!
・・・・・・・・・でも、このまっ平らな胸も事実なんであって。
「あ、あああ、あ、ああああああああの、ね?」
「ん?」
「おど、おおおおおどどど、おど、おどろかないで聞いて、ねぇ?」
「んー?」
目の前で首を傾げるママ上は、やっぱり私と血が繋がっているとは思えないほどに可愛い。
・・・・・・・・・大丈夫。うん、大丈夫だ。
大きく深呼吸して決死の覚悟で口を開いた。



「な、なんか私、男になっちゃったんだけどっ!!」
「何言ってるの? 圭君は生まれたときから男の子じゃない」



ママ上はいつもと同じで可愛かった・・・・・・・・・。



とりあえずご飯の前に着替えておいでと背中を押されて、そのまま身体が勝手に部屋へと戻る。
私の部屋みたいなのに、私の部屋じゃない部屋へ。
「・・・・・・・・・」
似てるんだけど、似てない。でも私の好みと使いやすさの部屋。
・・・・・・・・・たしかに、私が男だったらこんな感じの部屋になってたかも・・・・・・。
浮かんだ考えにハッとして首を振る。
「わ、わわわわわわ私は女だし! たしかに美少年顔で跡部のナンパ仲間だけど、杏ちゃんに言い寄られたりもしてるけど、学ランの方が似合うけど、でも一応女だし!」
・・・・・・言ってて悲しくなってきたけど、でもそれが私だったはず。
じゃあ、この鏡の中にいる私そっくりの、でもいつも以上に心も身体も少年らしい私は何だ・・・・・・?
「・・・・・・・・・泣きそう・・・」
じんわりと浮かんできた涙目でもう一度部屋を見まわすと、机の上に見慣れないモノが乗っているのに気づいた。
あぁもうマジで泣きそうだ・・・・・・。



机の上にあったのは、分厚い日記帳のようなものだった。
青くて丈夫そうな装丁に、銀色で縁取りと模様が入ってる。
・・・・・・私のじゃない。誰だのだ、これ。
とりあえず開いてみた―――――ら。

真っ白だった。

「・・・・・・マジで踏んだり蹴ったりだ・・・・・・・・・」
本気で泣きそう。つーか泣く。今日はまだ魔王にも杏ちゃんにもちょたにも会ってないのに何で。
何で私はここまで不幸なんだろうか・・・・・・。
どんよりと暗くなってメソメソしてると、日記に段々と何かが浮かび上がってきてるのが見えた。
あぶりだしか? でも私は温めても何もしていないし。
そんなことを考えている間に、文字が綺麗に現れて1ページを埋め尽くした。
・・・・・・・・・とりあえず読んでみるか。
今日はもうこれ以上不幸になったところで不幸だから大丈夫だろ・・・。
目尻に浮かんでいた涙を拭って文字を追う。



初めまして、佐東圭様。
この度は突然のことに驚かれているかと思います。
ですがこれも私めのマグル学ゼミレポートのため、どうかご協力戴きたいのです。
無事に終了したあかつきには、佐東様の望まれる通りの御礼をしたいと思いますので、どうか何卒ご協力のほどよろしくお願い致します。

現在の状況を説明致しますと、佐東様の今いらっしゃる世界は、佐東様が本来いらっしゃる世界とは微妙に異なるのです。
この世界では、佐東様を始めとされる幾人かの方々は、性別が男女入れ替わっております。
(ちなみにご両親の方まで変更できなかったのは、ひとえに私の力不足によるものです。申し訳ありません)
性別が変わることによって、佐東様の本来いらっしゃる世界にいる人々とは名前や言葉遣い等が少々変化しているかもしれません。
ですが魂の根源は同じですので、どうか変わりなく接して頂ければと思います。
マグル―――人間の行動パターンを観察したいので、どうぞよろしくお願い致します。
ちなみに貴方が貴女であるということが周囲に知られましたら、その時は取り返しのつかない事になりますので、くれぐれもお気をつけ下さいませ。

この本はこの世界の佐東圭君(男)の記憶を封じたものです。
佐東様がこの世界で生活するのに大いに役立つと思います。
とりあえず一週間を目安として実験したいと思いますので、その頃にまたお伺い致します。
どうかそれまで佐東様がご無事でおられますように。

男の人の身体は色々と面白いので、弄ってみるのも一興かと。
それではまた。失礼致します。



ホグワーツ魔法魔術学校日本校 一女生徒より



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハリー・ポッター?」
まさか、と思って呟いてみれば、日記帳・・・じゃなくて佐東圭君の記憶帳はピカッと光った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
すごい、すごいというか、何と言うか、ビックリなのかと疑うべきか・・・・・・。
いやさ、もう私がここにいるって時点で疑うべくもないんだけどさ・・・。
あぁ、マジで泣きそう・・・・・・・・・。
「・・・・・・とりあえず、学校でも行くか・・・」
ものすっごい不安だけどな!



私の呟きを聞き取ったのか、記憶帳がピカッと光って時間割を浮かび出してくれた。
・・・・・・マジでハリー・ポッターの世界なのかも・・・。
本気で泣きそうになりながらパジャマを脱いで学ランに袖を通した。




2003年11月4日(2005年7月4日再録)