日曜日、午前中の部活を終えて俺は寮の部屋を出た。
「あれ? 裕太、どこか行くの?」
「あ、木更津先輩。今日はと会う約束してるんです」
って、あの美少年の?」
「・・・・・・・・・先輩、その言い方はちょっと」
「だってそれ以外に言い様がないじゃない」
クスクスと木更津先輩は楽しそうに笑う。
たしかには美少年顔だけど、一応女なわけだし。
あーでも最近はアイツ、開き直ってきてるしな。まぁいいか。(いいのか・・・?)
「ほら、時間いいの?」
「あ、じゃあ行ってきます!」
先輩にヒラヒラと手を振って見送られて、俺は寮を出た。
当然のごとく昼メシは食べないまま。





学園天国(背中合わせの心友)





「よ、裕太。お待たせ」
「いや、そんなに待ってないし」
俺の予想通り、約束10分前には待ち合わせ場所に現れた。
ちなみに俺が来たのが今より5分前。
俺たちはなんでか約束よりも早く待ち合わせ場所に訪れる習性がある。
なんでだろうな・・・? 別に几帳面ってわけじゃないんだけど。
、昼メシまだだろ? 先に何か食おうぜ」
休日はいつも昼まで寝ているにそう言うと、目を輝かして答えが返ってきた。
「オッケ! でも金がないから吉牛か松屋を希望」
「なら松屋だな。カレーが食いたい」
「じゃあ私は照り焼き定食で。やーもう遅刻だと思ったからさ、朝ごはんも食べてないんだよ」
「もっと早く起きろよ。俺なんか午前中、部活だったんだぜ?」
「ご愁傷様。それも運動部の運命さ」
声を上げてが笑う。
その拍子に通りすがりの女子高生が振り向いて、を見て頬を染めた。
・・・・・・・・・・その気持ちは、判らないでもない。(ちなみに出かけの木更津先輩の言葉も判らないでもないんだ)
だけど写メールを取り出すのは待ってくれ。さすがに肖像権の問題が・・・・・・?
「ほら裕太、さっさと行くぞ」
振り返って笑うはやっぱり美少年で、でも俺にはちゃんと女の子に見えた。
たとえ着ている服が男物だったとしても。
(今日のの服は黒Tシャツにジャケットと揃いのパンツ。それとスニーカーに帽子だ。顔は見えにくいけれど、完全に見えないわけじゃないから振り返る人は結構いる。これも相変わらず変わらない)
「今日が9・10日だったら迷わず吉牛なんだけどな。でもまぁいっか」
「一般的な女は自分から定食食いに行こうなんて言わないんじゃないのか?」
「それは男女差別さ、裕太。近頃の女性は自己主張が強いんだよ」
「そういうことにしとくか」
笑いながらそう言ったら、にパンチされた。よってお返しにエルボーを食らわす。
でもこれはちゃんと手加減して、痛くないように。
もそれを判っているから、俺には全力で攻撃してこない。(桃城とかとは違って)
だっては女の子なんだから、俺が本気で痛いように攻撃するわけにはいかない。
傷とかつけたくないし、友達だから大事にしたいし。
この前は泣きそうな顔だったけど、今日は笑っている。
よかったと、本当に思う。
そんなこんなで、俺たちはふざけながら松屋へと向かった。



結局俺は大盛カレー(サラダと味噌汁つき)を食べて、はつゆだく大盛の牛丼を食べた。
それでも安い松屋を褒めながら店を出て、ぶらぶらと歩き始める。
「あ、私あとで楽譜買いたい」
「いいぜ。俺もちょうど欲しいCDあったし」
「昨日発売のやつ? よっしゃ! 私もあれ欲しかったんだよね。よろしく、裕太!」
「MD代くらいは出せよ」
「まるまる一パック買ってあげるから、それでチャラ」
「・・・・・・わかった。じゃあ次に会うときまでに録音しとく」
話をしながら通り沿いのCD屋に入って、最初は俺もも新譜のコーナーに向かう。
「あややだ。うっわ可愛い」
好きだよな、そういう系」
「だってめちゃくちゃ可愛いじゃん! この目とか口とか」
「あーハイハイ」
女なのに某アイドルのCDを手にして騒ぐ
どこからどう見ても男にしか見えないのが悲しいというか、笑えるというか・・・・・・。
いや、やっぱりここは気の毒と言うべきなんだろう。たぶん。
向こうでを見て騒いでいる女の集団も、気の毒と言うべきなんだろう。たぶん。
やっぱり写メールで撮られる前に俺たちは楽譜コーナーへと移動した。
ヴァイオリンの楽譜を両手に持って比べ始める
その横顔は真剣で、つい声がかけ辛くなるくらいだ。
俺がテニスに真剣なように、もヴァイオリンに真剣なんだと思う。
将来のことはとにかく、今は一生懸命練習して巧くなりたいと思うくらいには。
「ごめん裕太。お待たせ」
楽譜を一冊手に持って、が近づいてくる。
「これ、次のコンクールの楽譜なんだけどさ、やり辛いのなんのって」
「いつなんだ? そのコンクール」
「一ヵ月後に予選。・・・・・・ははははは! 見てろよ、審査員の度肝を抜いてやるっ!」
「・・・・・・・・・・音楽のコンクールで何やらかす気だよ」
は拳を握ってハイテンションと化して、それでもにやりと笑ってみせた。
――――――あ。コイツがこういう風に笑うときは、ものすごく自信があるときだ。
俺は全然関係のないコンクールの審査員とやらに同情せざるを得ない・・・・・・。
「別に? ただ素晴らしい演奏を皆様にお聞かせしようと思いまして」
たぶん、この言葉に嘘はないはずだ。たぶん。
(落ち着け、俺。何かあっても被害を受けるのは俺じゃないはずだ。その点で俺はとの友情を微塵も疑ってはいない)
ニコッと普通の笑みに戻してが笑う。
「裕太も暇だったら来なよ。いいもの聞かせてあげるし」
「・・・・・・・・・暇だったらな」
こんな返答を返しつつも、きっと俺は一ヵ月後の休日は空けておくんだろう。
久しぶりにのヴァイオリンも聞きたいし。
何が起こるのか判らないけど、のことだから大きな迷惑はかけないだろうし。(少なくとも俺には)
ならそれだけで十分だ。



約束通りMDをに奢ってもらって、CD屋を出てぶらぶらと歩く。
ときどき服とか見たり、雑貨を見たりして。
でもって四時くらいにケーキ屋に入った。
いつもは男の俺が一人で入るのは辛いけど、今はが一緒だし。
たとえ外見は男にしか見えなくても、れっきとした女のが一緒だし。
ケーキを食べて、お茶を飲んで。
レモンパイを半分寄こせと言われたから一口やったら、お返しにショコラトルテを一口もらった。(美味かった)
紅茶も中々だし、この店は当たりだな。
にそう言ったら「やっぱ趣味が合うね」と言われた。



寮の夕飯の時間があるから、六時前に別れて俺はまっすぐに寮へと帰る。
片手にはCDとMD。
ポケットで携帯が揺れるから取り出してみればメールが届いていた。
しかもついさっきまで一緒にいたから。
何々・・・・・・?
『MDに録音し終わったらメール頂戴。いつでも取りに行くから』
取りに行くって・・・・・・ルドルフまで来るつもりか? うちは一応男子校なんだけどな。
まぁでもだし。制服で来ない限りは女だとバレないだろう。うん。(それはそれでどうなんだ・・・?)
噂とかにはならないだろうし、いいよな。
俺はそう考えてオッケーの返事を返した。
寮までは、あと少し。



「――――――――――って感じですけど、何か・・・?」
帰ってくるなり観月さんを始めとする先輩方に捕まって、俺は現在夕飯をとりながら尋問されている最中だ。
何なんだ、この状況は・・・・・・?
先輩方は一瞬沈黙した後で、クルリと俺に背を向けて食堂中に響き渡る声で言った。
「裕太が女とデートしてきただーね!」
「しかもめちゃくちゃ綺麗系とね。うわぁ、やるね裕太」
「純情そうに見える裕太がなぁ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「なっ!?」
この、人たちは、今何を!?
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜違いますっ! はただの友達ですっ!!」
「女の子と二人で出かけたらそれはデートだーね!」
「デートだと思う人、挙手してみて?」
木更津先輩の言葉に、食堂にいたテニス部員たちの手が一斉に挙がった。
お、恐るべし男子校・・・・・・・・・っ!(青学じゃこんなことなかったぞ!)
「〜〜〜〜〜〜〜〜でも、は美少年系ですしっ!」
「それでも裕太君には彼女が『女の子』に見えるのでしょう? 意識している証拠じゃないですか」
普通ならさんは男に見えるのにねぇ、なんて言って観月さんが前髪をいじくって笑う。
意識って・・・・・・・っ! 何、を!?
「何をって、なぁ?」
赤澤部長が普通に頷いて、柳沢先輩も頷いて、木更津先輩も、観月さんも、食堂にいた部員全員が頷いて。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
「だから、違いますっ!!」
どんなに否定してもみんなは笑っていて納得してはくれなかった。
しかも今度はを寮につれて来いとか言い出すし・・・・・・。
悪い、
やっぱりMDはルドルフまで取りに来ない方がいい。
俺が、青学まで行くから。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



ごめん、やっぱりどこかで待ち合わせしよう。
俺との安全のためにも、絶対それがいいと思うから。
とりあえず、俺はにそうメールを打った。





2003年4月13日