今日は新しく開拓した児童書の続きを買おうと思って家を出てきた。
最新刊まで一気に購入して、さぁ帰るかと思ったらおなかが減っていることに気づく。
よって何か食べることに決定。
どうするか。金もないしラーメンくらいにしとくかな。
あの裏道を通って抜けたところにある店が美味いんだよな。大盛でも普通の値段だし。
知ってる人は少ないし、まさに穴場! 今日の昼はそこに決定!
つーことで行くか、とか思って裏道を入ったら。

ケンカ現場(おそらく終了済み)に出くわしてしまった。

しかも倒れてる五人を一人でのしたらしいお兄さん。
髪の毛が重力に逆らってる。背の高くてガタイのいい男。
おいおいおいおいおいおいおいおい、ちょっと待てよ!



いきなり右ストレート食らわしてくんじゃねーよ、こんのバカがっ!!





学園天国(今日の敵は明日の友)





おーこえぇ! マジでこえー! なんか目の前を拳が突き抜けて行ったんですけど!
つーかギリギリ! ちょっとでも遅れてたら顔面ヒットだった!
顔に傷でも作ったら跡部にめちゃくちゃ怒られるっ! あいつの小言はムカつくから出来れば聞きたくないんだよ!
「・・・・・・・・・」
目の前の男は私が避けたのが意外だったのか、どことなく驚いたような顔(というか雰囲気)で。
そしてニヤリと笑いやがった!
待て待て待て待て待ちやがれっ!!
「おい、待てっ! ここの道を通りたいだけなんだけど!」
だからその左フックや止めろ! つーか蹴るな! しかも上段蹴りかよ!!
「つーかなんで攻撃してくるんだよ!? 何もしないって!」
うぉっ! 肘テツが紙一重だし! こんな狭いところでよくそんなに動けるな。感心するよ、思わず。
向かってきた拳を右腕でいなして反撃に出た。
・・・・・・・・・・出るなよ、私!ここは大人しく引いとけよ!
でももう遅い――――――っ!!
ごめん・・・・・・・・・腹に一発食らわしちゃったよ・・・・・・・・・。
なのになんでまだ動けるのさ! つーかその腹は筋肉だな!? 殴ったときに硬かったんだけど!
ちくしょう! これだから男ってのは厄介なんだよ!
「やるじゃねぇの・・・・・・・・・」
「いやいやいやいや、もういいから。だから通して」
「・・・・・・・・・」
お願いしたのになんで笑いながら殴りかかってくるんだよー!? 男ってのはみんなこうなのか!? ナンなんだおまえは!
つーか笑うな! 怪しさ倍増じゃん!!
「――――――――――――っ」
一発、食らった。〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ちくしょう、めちゃくちゃ痛いっ!
何だよ、男と女じゃここまで力の差があるわけか!? やっぱ男に生まれればよかった!
そうすればこの外見を生かしてホストだろうと芸能界デビューだろうとたやすく出来たのに! ケンカもたぶん勝てたのに!
失敗した!! かなりマジで!
ゲホゲホッと軽く咳き込む私を見て、男はニヤッと笑う。
でもってすかさず蹴りかよ!
ザケンな! いつまでもやられてばかりだと思うなよ!!
舌打ちして懐に飛び込んで、とりあえず二発腹に拳を決めた。
少しだけ(ここがムカつく!)ふらついた相手に、ローキックをお見舞いして膝を沈ませ、指を組んだ両拳で後頭部を殴った。
だ・け・ど!
その手を掴まれたかと思うと速攻で引き寄せられて、腹に一発食らわされた。
だーもうっ! だからなんでこんなに痛いんだ!!
つーか私は何やってんだ!? ラーメンを食べに行くんじゃなかったのか!? 買った本はどこにいった!? また買いなおしかよ!!
今日も厄日だ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

どう考えても目の前の男のケンカの様子から見て、第二撃が来ることを予想してたんだけど、何故かいつまで経っても来ない。
不審に思って顔を上げてみたら、目の前には私の腕を掴んだままの男がいて。
・・・・・・・・・・何だよ、時間差攻撃か? うわっヒドッ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
来ない。いつまで待っても来ない。
何か? このケンカはここまでで終わりなのか? まぁどの道無駄な戦いだったんだけどな!
ちくしょう、なんか拳を食らった体の節々が痛い。やー、もうこれ絶対アザになってるだろうなぁ。家帰ったらシップ貼っておこう。
というか、続きをしないのならその手を離してくれ。そしてラーメンを食べに行かせてくれ。
あー・・・・・・おなか減った。



「・・・・・・・・・・・・・・・テメェ、女か・・・・・・・・・?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「そうだけど」



素直に答えたら男はあからさまに目を丸くして、そして視線を横に泳がせた。
お、おおおおおおおお? なんか困ってるみたいな雰囲気が。
なんか、実はこの男、いい奴なのかもしれない。少なくとも女性には暴力を振るわないと見た。
なんだ、いい奴じゃん。
「あー全然気にしないで。間違われるのには慣れてるから」
フォローではなく、あくまで事実を述べると、男はやっぱり視線をさまよわせて、そして掴んでいた私の手を離した。
―――――――――――――――――そして。



「・・・・・・・・・・・・・・・・悪かった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



あんた、いい奴決定!



「ラーメンでチャラ! 私、いいとこ知ってるから食いに行こう!」
こんないい奴を放っておく手はないね! あ、本もちゃんと道の隅に落ちてたし。よし、今日はついてる!
「おい、なんで俺が・・・・・・っ」
文句を言ってる男もはいシカト! 今日の私は運がいい!よってオッケー!
まだ何か言いたそうな男を引きずって、私はラーメン屋ののれんを潜った。



目の前には味噌コーンラーメンの大盛。でもって相手の前にはチャーシューメンの大盛が。
パンッと手を合わせて割り箸を割った。
「ゴチになります」
「・・・・・・・・・」
あ、やっぱ美味い。ここのラーメンはやっぱいいねぇ。
「チャーシュー一枚ちょうだい?」
無理を承知で言ってみたら、なんとチャーシューが私のどんぶりの中へ移動してきた!
マジでいい奴だ・・・っ! 今日は本気でついてる。むしろラッキーすぎて明日からの日常が怖い・・・。
考えちゃダメだ! 今の一瞬を生きるんだ、私!
「私、。青学の二年」
「・・・・・・・・・・亜久津仁」
亜久津かぁ。亜久津、亜久津、亜久津・・・・・・・・・?
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
微妙な沈黙が、ラーメンを食べている間に落ちる。
どっかで聞いたような――――――――――――って、あぁ!



「優紀ちゃんの息子かぁ!!」



思わず箸で亜久津を指したら、亜久津はぎょっとしたように顔を上げて私を見た。
あー、なるほど。優希ちゃんの息子か。そういやいるって言ってたっけ。
「・・・・・・・・・テメェ、優紀の知り合いか・・・?」
「いや知り合いなのはうちのママ上。優紀ちゃんと同級生でさ、って名前聞いたことない?」
亜久津が顔を歪めたということは、おそらく聞いたことがあるんだろう。
「それにしても世界って意外と狭いのな。まさか優紀ちゃんの息子にケンカふっかけられるとは」
「・・・・・・テメェ、つったな」
「そうだけど?」
「千石の知り合いだろ。前にアイツがウルセーくらいに話してた」
「・・・・・・・・・キヨと知り合い?」
「学校が同じなだけだ」
ってことは山吹か。白ランか。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「今度さ、制服着てるとこ見せて。むしろ見たい」
「あぁ?」
「亜久津がどんな風に白ラン着てんのか見たい」
「・・・・・・・・・テメェこそ青学の制服着てんだろうが。しかも女子の」
ぎゃ! そうでしたよ! そうなんですよ!!
「似合わねぇにもほどがあんな」
「・・・・・・・・・うるせぇよ。ちくしょう。私だって好きで女に生まれたわけじゃない」
「優紀がキャアキャア騒いでるぜ。ジャニーズみたいにカッコイイ女がいるってな」
「優紀ちゃん・・・・・・・・・」
あぁ、ラーメンが塩辛い。味噌ラーメンなはずなのになんで・・・・・・。



結論から言うと、亜久津はマジで奢ってくれた。
カツアゲで得た金かもしれないので、出所は聞かないことにしておいた。
「ゴチになりました」
一応、店を出たところで頭を下げておく。まぁ亜久津は相変わらず何も言わなかったけど。
「じゃー今日はこの辺で。優紀ちゃんにヨロシク」
早く帰って児童書を読まないと。さくさく読まないと絶対徹夜して読むことになりそうだし。
明日は学校だからな・・・。早めに寝て体力をつけないと。
今日はいい日だったから、きっと明日は悪い日だし。
三年の階とテニス部にだけは近寄らないことにしよう。
そう考えながら踵を返したところ、後ろから声がかかった。



「・・・・・・・・・ちゃんと手当てしとけよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「亜久津、あんたやっぱいい奴決定! 今から私たちは友達だ!」
「あぁ!? ザケたこと言ってんじゃねぇぞ、テメェ! 殴んぞ!」
「うっわ! 優紀ちゃんに言いつけてやる!」
「・・・・・・っ! 今から千石を呼んでもいいんだぞ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「じゃ、また今度」
「・・・・・あぁ」
こうして私と亜久津は穏やかに別れたのでした。



「ママ上、今日優紀ちゃんの息子に会ったよ」
「あぁ、仁君? ワイルドでカッコ良かったでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・ラーメン、奢ってもらった」
「あらあらまぁまぁ。じゃあ今度は優紀と仁君を夕飯に招待しましょうか。久しぶりに話もしたいしねぇ」
「・・・・・・・・・・・・・・どうぞ、ご随意に」



止めても無駄だからママ上を好きにさせておいたら、来週の水曜日に夕飯を一緒することになってしまった。
速攻で優紀ちゃんに電話するママ上。きっと私の手の早さはママ上に似たんだ・・・・・・。
とにかく、来週は無事に亜久津の制服姿が見られそう。
私はさくさく帰ってきて着替えておかなくちゃな!



とりあえず、お友達が一人増えた休日だった。(そしてとても良い日だった!)





2003年4月17日