「オマエ、名前は?」
「・・・・・・・・・っすけど」
「ふーん。――――――よし」



「オマエは今から俺の親友だ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホワッツ?
あんぐりと開いた私の口など関係ナシに、泣きホクロの色男は満足げに笑った。





学園天国(仕事仲間)





・・・・・・・・・どうしてこんなことになったんだっけ・・・?
現実逃避をしながら走馬灯のごとく数分前のことを思い出す。
そう、たしか今日は新しく発売した魔法使いの児童書を買おうと思って日曜なのに買い物に出たんだ。
街行く人並みを見ながら鼻歌なんか歌っちゃったりして。
でもって部活らしいメル友・手塚先輩に応援メールとか打って。
で・・・・・・・・・どうしたんだっけ?
あ、そうだ。絡まれていた女の子を助けたんだった。
黒髪セミロングで気の強そうな美少女がガラと頭の悪そうな男たちに囲まれていて。
いらん世話かとも思ったけど、とりあえず割り込んで追っ払った。(私の攻撃技は桃相手に日々鍛えられているからな!)
美少女にお礼なんか言われて、名前と学校とか聞かれて、笑顔でお別れをして。
あぁ・・・・・・・・・・その後にこの男が声をかけてきたんだ。
開口一番前置きもなくエッラそうな口調で。
「年は?」
「・・・・・・・・・・中二っすけど?」
律儀に答えるなよ、私! でも何か逆らいがたいオーラを感じたんだよ! 不二先輩とはまた別なタイプの!
「オマエ、名前は?」
「・・・・・・・・・・っすけど」
「ふーん。――――――――よし」
何がヨシなんだ?



「オマエは今から俺の親友だ」



こうして場面は冒頭へと戻る。



『親友=小さい時は常に行動を共にし、長じては何事をも打ち明けることの出来る友人』
的辞書には『親友』とはそのように定義されているのだが。
「・・・・・・・・・何も知らない人とイキナリ親友ってのは無理っす」
普通そうだろ。っつーかこの目の前の泣きホクロの色男は普通じゃないかもしれんけど!
だって醸し出してる色気が尋常じゃなく異常だよ! 後ろのお姉さんとかフェロモンにヤラれてるよ!
「俺は跡部景吾。氷帝学園中等部三年、テニス部部長だ」
『これで何も知らなくねーだろ』と言わんばかりに仰られても。
「・・・・・・・・・何で、親友にならなきゃいけないんですか?」
とりあえず理由だけ聞いておこう。それでくだらない理由だったらさっさと逃亡しよう。
色男・・・もとい跡部さんはふんぞり返って仰られた。



「俺がオマエの顔を気に入ったからだ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げてもいい?
顔? 顔とは何ですか? この男にしか見えないジャニーズ系の美少年顔のことを言ってるんですか?
今まで女の子を惹きつけたことはたくさんあったけど、男まで釣ってしまうだなんて!
罪作りな私! つーか怖いよ、この人!!
「俺ほどじゃねぇけど、オマエの顔は俺が今まで見てきた中で一番レベルが高い。よってオマエは俺の親友だ」
・・・・・・・・・何だ、その理論は。
「美形がレベルの低いヤツと並んで歩くなんて俺の主義に反する。やっぱり同じくらいのヤツでないとな」
・・・・・・・・・褒められてるっぽいけど素直に喜べん。
「見てみろ」
クイッと顎で示されて周囲を見ると、私たちを中心にちょっとした人だかりが出来ていた。
しかも大半が女性!小学生の女の子から新妻・主婦くらいの女の人まで!まさに選り取りみどり〜。
「俺とオマエが並べばこんなに女が集まってくるんだぜ? これを活かさねー手はないだろ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、つまりはそういうことか。
でもなーそれってもう間に合ってるし。
「スイマセン。悪いんですけど、ナンパ仲間ならすでにいるんで」
一緒に出かけて女の子をナンパする友人ならもういるんだよねぇ。最近会ってないけど。
ピクリと跡部さんの眉が不機嫌そうに動いて。
「・・・・・・アーン? 俺を差し置いて他のヤツだ? 誰だ、ソイツは」
「言っても知らないと思いますけど」
「いいから言いやがれ」
何て俺様な人なんだ(すでに疲れてるので棒読み)。
「山吹中の三年で、千石清純っていうんですけど」
相方の名前を出したら跡部さんは一瞬目を丸くして、考え込むように顎に手をかけた。
ひょっとして知り合い? いやー世間って狭いねぇ。
「千石か・・・・・・まぁ及第点ってところだな」
厳しい評価だなぁ。キヨは十分カッコイイじゃんか。
「だが千石なんかより俺達のほうが数段上だ。よってオマエは俺の隣を歩く義務がある」
義務かよ! そんな義務を果たすよりは大人しく税金払うっつーの!
・・・・・・・・・っていうかさ、この人根本的に間違ってるよ。
私は男じゃなくて女なんだから、女性をナンパしたって嬉しくも何ともないんだよ。
キヨはナンパしながらも一緒に遊んだりするからいいんだけどさ、最初からナンパ目的で親友になれって言われてもねぇ。
いや、確かに男にしか見えない私が悪いんだろうけど。
メンズ物のパンツとジャケット着て、武器代わりのゴツいシルバーリングとかつけて、メンズノンノとかにスカウトされるこの顔が悪いんだろうけどさ!
こんなに疑いもせず男だと思われるのってスッゲー悲しいんだよ!!
もういい、さっさと帰ろう。
「すいませんけど、私、女なんで。お断りさせて頂きます」
言うだけ言って背を向けて歩き出した。帰って魔法使い児童書を読んで夢の世界に浸らなければ。
・・・・・・・・・って思ってたのに何故か腕を掴まれて動けないし!
振り向けば跡部さんがしっかりと力を込めて腕を握ってるし!
「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ」
・・・・・・・・・悲しい。マジで泣きそう。
「いや、マジで女なんですって。生徒手帳とか見ます?」
「こんな顔とナリした女がいるかってんだよ」
「いるじゃないすか、ここに」
・・・・・・悲しい。桃でさえ二回言えば納得してくれたのに。跡部さんって理解力低いよ。
仕方ない、似合わない女子の制服を着て撮った写真の載っている生徒手帳をお見せするとしますか。
鞄を開けてガサゴソと漁っていると。
「本当に女なのか・・・・・・?」
疑い深い跡部さんの声が聞こえて、そして――――――。



むにっ



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ふざけんなぁ! 死ね! この変態が―――――っ!」
新技アッパーカットが炸裂! このまま連続コンボとかやりたい! でも往来だから我慢してやる!!(学校なら間違いなくやってる!)
だってこの人、胸を掴んだんだぞ!? しかもそのまま揉みやがった! 〜〜〜最ッ低! こんの顔だけ色男が!!
フーッフーッフーッ! 噛み付いた後の犬のごとく息を切らせて敵の復活を待つ。
道に転がった跡部(もうこんなヤツ呼び捨てで十分だ!)はようやく身体を起こして。
私の胸を掴んだ右手をワキワキとさせて信じられないように呟いた。
「・・・・・・・・・マジで女なのか・・・」
「だから言っただろーが! 勝手に人の身体に触ってんじゃねーよっ!」
「・・・・・・・・・」
少し沈黙して、跡部は立ち上がると身体についた埃を払った。
あ、そのシャツは有名ブランドの高いヤツだ。勿体無いことしたなー。でも跡部が悪いんだし!
そして何でまた私の手首を掴むのさ! しかも逃げられないように思いっきり!
「女ならさらにイイ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でさ――――――ッ!!
「俺とオマエが並べば、女どもはオマエが男だと思って近寄ってくる」
そりゃそうさ! 悲しいけどそれは事実だよ!
「でもオマエは女だからそんな奴らに興味はないだろ? だったらその分俺の相手が増えるってわけだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!
コイツ・・・・・・ッ! 激しく女の敵だぞ! しかも私を餌として利用しようとしていやがる!
「残ッ念! お断りだね、そんな役!」
「もう決めた。オマエに拒否権はない」
「・・・アンタほどの男ならもう他に並んで歩くヤツはいるんだろ!? ソイツで満足しとけ!私を巻き込むな!」
「忍足や宍戸なんかよりもオマエの方がより俺のレベルに近い」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜だーかーらーっ! 私は女の子に興味なんかないんだよ! ナンパなら一人でやれ!」
「オマエは黙って俺の隣に立っていればいい。それ相応の見返りは用意するが?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・見返り?
「一緒に出かけるときの食事代は出してやる。それと女一人につき服一着だな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは今アンタが着てるのと同じブランドですか?
「オマエが違うのがいいって言うなら別の店でも構わないぜ?」
そう言って続々と高級ブランドショップの名前を挙げていく跡部。
あぁもう・・・・・・何でこんなに俺様なヤツなんだ。顔が良くてもこれじゃあダメだって。
同じナンパ仲間でもキヨの方が何倍もイイ男に思えてくるよ・・・・・・。キヨ・・・・・・何だかとっても懐かしい。
「・・・・・・・・・金出したら親友じゃないと思うんだけど」
「じゃあ出さなくてもいいのか?」
「・・・・・・・・・食事代だけ、出してくれ。服は別にいらないから」
ママ上が楽しそうにメンズ物を選んで買ってくるからさ。これ以上はいらないって。
「じゃあ決まったな。オマエは今から俺の親友だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そーっすね」
「俺のことは『跡部』と呼べ。俺はオマエを『』と呼ぶ。名前で呼ぶと女だってバレるからな」
「・・・・・・・・・うぃーっす」
「じゃあ行くぞ、
女性たちをかき分けて進んでいく跡部。・・・・・・つーか私の休日はどこへ行ってしまったのでしょうか?
こんな変な人の親友になっちゃって。でもOK出さなかったら何されるか判らないオーラが出てたんだよ!
不二先輩とは別種の俺様オーラがさ!
あぁ本当に・・・・・・・・・どうなってしまうんでしょう・・・・・・。



その後、イタリアから産地直送のレストランで昼食。(もちろん跡部のおごり)
、オマエ恋人はいるのか?」
「・・・・・・・・・・彼氏?」
「彼氏でも彼女でもどっちでもいい。いるのか?いないのか?」
「彼女がいるわけないじゃん。ってか、彼氏もいないけどさ」
「そうか。ならいい」
満足そうにふんぞり返る跡部。・・・・・・「ならいい」って何さ。
「オマエの恋人は俺が見繕ってやる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホワッツ?
「俺と同じレベルのヤツがどうしようもない相手に引っかかるとムカツクからな。俺がちゃんと判断を下してやる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・何じゃそりゃっ!
「恋愛相手くらい自分で選ぶし。跡部が判断しなくてもいーよ」
「いや、オマエがしょうもないヤツと付き合ってみろ。俺とオマエは同じレベルなんだぜ? 俺まで趣味が悪いと思われる」
「思われないから平気だって」
「宍戸・・・・・・いや、最低でも忍足レベルじゃねぇとオマエの相手は任せられねぇな」
誰だよ、忍足って。
そんな私の疑問などどこ吹く風。跡部は優雅にエスプレッソを飲みながら。
「食事が終わったら新宿に移動するぞ。渋谷のガキなんか相手に出来ないからな」
ガキって・・・・・・・・・。私も貴方もまだ中学生のガキだと思うんですけど。
「俺の好みは女子大生からOLの派手めで騒がしくない女だ。今日一日でしっかりと判らせるからな。次からはそういう女を捕まえるようにしろ」
そして跡部に回すんですか。・・・・・・・・・私まで女性の敵の仲間入りかぁ・・・。
ふふふふ・・・・・・どうしよう。ゴメン、世界中の女性の皆様。
「行くぞ」
伝票を持って立ち上がった跡部について行くことしか出来ない私を許してください。
いや、ホント、マジで。・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰か助けて。



こうして新宿に行ったあと、跡部好みの女性をナンパすることに成功した私はさっさと彼女を跡部に譲って家へと帰った。
茶色のストレートロングの綺麗なお姉さんは跡部のことも満更ではなかったみたいだし。
嫌がる女性に無理やりにでも相手させようとしたら二度と起き上がれないように殴りつけるつもりだけどね。
ま、お姉さんがいいならそれでいいさ。
何だか家に帰ったら非常に疲れが襲ってきて、魔法使い児童書を読むことも出来ずにベッドへとダイブしてしまった。
あぁ本当に・・・・・・変なヤツと親友になっちゃったよ。



夢の中でも跡部にナンパさせられた私は、起きたあと寝ている間に届いていたキヨからのメールに疲れた表情で返事を返すのであった。





2002年11月29日