今日はよく物の落ちてくる日だった。
(よってのちに落し物記念日と名づけた!)
学園天国(落し物にご注意)
一番最初に落ちてきたのは胡椒のビンだった。
「はい、朝ごはん〜・・・」なんて言われて皿に出された日にゃ家出しても当然だね!
ママ上、そんなに眠いんなら朝起きてこなくてもいいからさ・・・。むしろ寝ぼけた状態で台所に立たないでくれ。
私とパパ上の命が危機に晒される。
二番目に落ちてきたのは鳥の雛だった。
登校途中に遅刻寸前でマジ走りしてたら目の前にボトッと。
踏まなくてよかった・・・・・・。踏んでたらさぞかし悲惨なことになっていただろうし。
でもって巣のある木に登って雛を返したら余裕で遅刻して桃と荒井に笑われた。(とりあえず殴っておいた)
三番目に落ちてきたのはマサやんの英語の教科書だった。
マサやんがちょうど私の席の隣を歩いていたところに桃とたまたまうちのクラスに来ていた海堂がケンカしてぶつかって。
とばっちりを受けたマサやんは椅子と机をなぎ倒して倒れ、持っていた教科書が私の脳天直撃。(しかもカド!)
喧嘩両成敗で二人とも殴っておいた。
・・・・・・・・・こんな感じで、その後もパンが落ちてくるわ音楽室の鍵が落ちてくるわバレーボールやら壁のポスターだわエトセトラエトセトラ。
一番面白かったのはアレだ。
廊下の曲がり角でぶつかった一年生の女の子を抱き起こしたこと。
女の子は顔を真っ赤にして走り去って行ってしまったけど、荒井曰く「あーぁ、あの子おまえにオチたな」とのこと。
・・・・・・・・・ハハハわーい。別にいいさ、女の子にモテるのなんて最早日常の一部だし。
どうせジャージを着てる私は男にしか見えないしな。
だからってさ。
人間まで落ちてくるとは思ってもいなかったよ。
「――――――――――っつー・・・・・・」
うわ、ちょっとさすがに重かったかも。つーかビックリした。
「お、おい大丈夫か、」
「んー・・・まぁ平気。驚いたけど」
私の腕の中にはたった今落ちてきたばかりの茶色の髪した学ランの男子生徒。
「英二っ! ちゃんと場所を考えて行動しなきゃだめだろ! これでもし大怪我につながったらどうするんだ!?」
「ごめん、ごめんなさい〜・・・・・・・・・」
階段の上のほうから怒る声と泣きそうになりながら謝ってる声がする。
「英二先輩!? 大石先輩も!」
桃が階段上の二人を見て驚いてるし。・・・何、知り合い?
「桃〜! っていうか不二は? 不二は平気!? 怪我とかしてない!?」
「・・・・・・うん、大丈夫だよ」
腕の中にいた男子生徒が顔を上げた。・・・・・・・・・・・・・・・・・うわお、美人さん。
学ラン着てるってことは男子だよね? うわ、羨ましい。何でこんなに美人さん?
世界中の女の子を敵に回しそうな美しさ。あ、男も敵に回しそうだな。
「君は? 君は怪我してない?」
これも階段上にいた爽やかな雰囲気の人が聞いてくる。あ、カラーの色からして三年だ。
「大丈夫っす。ちょっと擦りむいたくらいで」
「、手とかヘーキか? 人一人受け止めたんだぜ? 捻挫したりしてんじゃねぇの?」
「んー大丈夫っぽい。つーかこの先輩の方がダメだと思うけど」
「・・・え?」
驚いたように顔を上げたのはいまだ私の腕の中にいる美人男子生徒で。
その綺麗な顔を至近距離で見るのは中々に辛いものがあるなぁ。得といえば得だけど。
「足、痛めてません?」
体勢を立て直そうとしたときに右足を庇っているように見えたんだけど。見間違いならそれでいいけど。
でも、驚いたようにその細い目を開けて手が自然と足にいったから。
ビンゴ。当たりだね。
あーもう仕方ないなぁ。掃除も終わってこれから部活だって時だったのに遅刻決定。
「ちょっとスイマセン。しっかり掴まってて下さいね」
「え?・・・ってうわっ!」
うわっはこっちの台詞だ!何でこんなに軽いのさ! マジで世界中の女を敵に回してるよ、この人。
「おいおいおい、・・・・・・」
呆気にとられて桃が口を開いてるし。あ、隣の先輩方もだ。
えーっと今私がお姫様抱っこしてるのが『不二先輩』で? たしかこの髪のハネてる先輩はさっき『英二』って呼ばれてたような。
じゃあ消去法で爽やかな先輩が『大石先輩』だ。
「とりあえず保健室。桃、そこに落ちてる鞄と楽譜も持ってきて」
あぁ制服に着替えてなくてよかった。制服で転んだら埃がつきまくるし。
「顔隠してたほうがいいですよ。変な噂になりたくないなら」
抱えているお姫様、もとい美人な不二先輩に一言ご申告。
だってさー私が男に見えたとしても、男にお姫様抱っこされてるって噂になるのは嫌だろうし。
まして女にされてると噂になった日には責められても文句は言えんよ。
不二先輩もそれに気づいたのか大人しく顔を伏せた。
さ、保健室は二階だったよね。
突き刺さる好奇の視線が痛い。
「くーん! 今度私も抱っこしてー!」
「はいはい、機会があったらね」
「よっ、男前!」
「どーもアリガト。嬉しくないっつーの!」
二年の教室が並んでいる階を通らないと保健室には行けないんだけど、これがまた声をかけられるかけられる。
あははもう人気者状態?むしろ晒し者かもねー。
保健室に着くと爽やかな大石先輩がドアを開けてくれた。
中にいた中年の女性保険医が振り返って目を丸くする。
「あらあらあら、どうしたの?」
「いや、階段から落ちたときに足を痛めたみたいで」
大石先輩、的確な説明グッドです。
「そう。じゃあ君、こっちに彼を降ろしてくれる?」
「オッケーっす」
この学校の先生方は私のことを『』または『君』と呼ぶ。それはもう学食のおばちゃんから事務のおじいさんまで。
そりゃまぁねぇ、『さん』なんて呼ばれた日には鳥肌もんだけどさ。
ベッドに不二先輩を降ろすと体が一気に軽くなった。・・・ちょっと肩凝ったかも。
「擦りむいただけね。捻挫とかはしていないみたいだし、三日もたてば部活も出来るようになるわ」
保険医の先生はそう言ってテキパキと消毒して包帯を巻いていく。
部活。・・・部活・・・・・・・・・。
「ね、桃」
「何だ? 」
「あの先輩ってさ、例の『天才・不二周助』?」
たしか荒井やマサやんが以前言っていたような気が。『アクロバティック菊丸』と『大石副部長』っていうのも聞いた覚えがあるし。
「ああ、そうだぜ。テニス部の先輩」
「うわ、マジ? 天才をお姫様抱っこしちゃったよ」
「ハハ、おまえ先輩のファンに知られたら殺されるかもな」
「シャレにならん」
桃とのんびりそんなことを話していたら、再度菊丸先輩に説教をしていた大石先輩が心配そうな顔でこっちへ来た。
「ごめんな、不注意でこんなことに巻き込んで」
「いえ、大事がなくてよかったです」
有名人を抱っこできたし。・・・・・・・・・何て言ったらどうなるか判らないから言わないけど。
「君も頬を擦りむいてる。先生に手当てしてもらおう?」
大石先輩が自分の右ほっぺを指差した。私もつられて手を当てる。―――――ってそっちは左じゃん。右だよ右。
ピッと走ったような跡。うわ、触るとちょっと痛いかも。
「平気っすよ、これくらい」
「ダメだよ。ちゃんと手当てしないと」
「いや、本当に」
「ダメだよ」
ピシャンッとキッパリハッキリ言い切られた。
爽やかな大石先輩が真面目な顔で。
ベッドの不二先輩もうな垂れている菊丸先輩も、隣の桃まで驚いたように目をパチクリさせてるし。
もちろん、私もだけど。
「女の子なのに顔に怪我したりして・・・痕が残ったりしたら大変だろう?」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わぁお。
気づいたよ、この人。私が女だってことに。
「お、大石先輩すげぇ! よく気がつきましたねっ!!」
桃城武興奮中。いやでもその気持ちもわかるよ。私もまさか気づくとは思ってなかった。
「そうかな? 一目で判ると思うけど・・・」
「いや判りませんって!」
桃め・・・。そこまで言うと何かムカつくぞ。
不二先輩と菊丸先輩はどうやら気づいてなかったみたいで目をまん丸にしてる。
あ、菊丸先輩ってちょっと猫みたいだ。クルクル巻き毛の茶色い猫。
「え・・・・・・・・・え、ちょ、大石、それホント!?」
どもりまくりっす、菊丸先輩。
「ああ、そうだと思うけど。・・・そうだよね、さん?」
『さん』! まさかこんなに早く言われる日が来ようとは!
「当たりっす。マジでよく判りましたね」
「男に比べて雰囲気が柔らかいからね。すぐ判ったよ」
・・・・・・・・・すぐ判ったってー。うわ、マジで?記録更新?
「・・・・・・じゃあ何・・・・・・・・・?」
何じゃ、この暗い声は。
「・・・・・・・・・僕は女の子にお姫様抱っこされちゃったわけ・・・・・・・・・・・・?」
・・・・・・・・・暗いっす、不二先輩。
だからスイマセンって。最初に謝ったじゃん。ご注意もしたじゃん。
だからそんな冷気を振りまいて不機嫌を表すのはやめて下さいよ。
わーん! せっかく人助けしたはずなのにどうしてこうなるのさー!!
「もとはと言えば・・・・・・・・・」
ユラァッと音も立てずに不二先輩がベッドから立ち上がった。
何だよその立ち方は! ドラキュラみたいに立つんじゃないっつーの!!
「もとはと言えば英二が階段でふざけたのがいけないんだよね・・・・・・?」
茶色の長めの髪の下で綺麗な顔が綺麗に綺麗に笑みを作って。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご愁傷様です、菊丸先輩。
桃とスタートダッシュに全力を賭けて保健室から逃げ出した。
後ろからは猫の悲鳴と壊れたっぽい扉の倒れる音がして。
ごめんなさい先生! 扉は後日直しに伺いますから今は逃げさせて下さいな!
あの恐ろしい魔王から!!
落ち物ばかりがあった日に、とんでもない物を拾ってしまった気がする。
あの先輩のいるテニス部に所属している桃や海堂って何て勇気があるんだろう・・・!
尊敬せずにはいられないね!
後日、不二先輩からお礼にラズベリーパイを貰った。
美味しかった。
やっぱあの先輩、そんなに怖い人じゃないのかも。(そう言ったら桃と荒井とマサやんに全力で否定された)
とりあえず、評価は保留ということで。
ラズベリーパイご馳走様でした。
2002年11月4日