一年前の春、入学式にて。
「あれ? おまえ男なのになんで女の列に並んでんだ?」
「・・・・・・・・・女だからだけど」
最悪な初対面。
仲良くなるのに時間はかからなかった。
学園天国(日常レース)
ダダダダダダダダダダッ
全力で廊下を駆け抜ける。
「先輩がんばってくださーい!」
「桃ー負けんなー!」
「おまえらっ廊下を走るなと何度も言って・・・・・・・っ!!」
通り過ぎていくギャラリーたちに私は振り向いて軽く手を振った。
「応援ありがとー」
「! 余所見してると俺が勝つぜ!?」
「桃なんかに負けるかっつーの!」
そしてレースはエスカレート。
階段を3段抜かしで下りきって、廊下の角を曲がって、20メートルも走りきれば。
ダンッ
『食堂』という看板にぶち当たる。
「――――――私の勝ちだね。よっしゃコロッケパンゲット!」
満面の笑みを浮かべて息を整える。
よしっこれで昼食代が150円浮いた。やったやったやったー!
僅差でタッチできなかった桃は廊下にへたり込んでいる。
「〜〜〜〜〜ちくしょー!」
「これで今週は4勝1敗で私の勝ち! よって今日はオレンジジュースも追加ー」
「つーかズリィぞ! 席替えで一番出口に近い席になるなんて!」
「運も実力のうちさ。ほら、さっさと買おう」
4時間目が終わってダッシュで購買まで来たからまだそんなに混んでないし。
あーもう疲れた。まぁいい運動になってるけど。
「すいませーん! 焼きそばパンとブルーベリーパイと茸のおにぎり一つ下さーい」
「おや、いらっしゃい君。今日の勝負はどうだった?」
「私の勝ちっす。というわけで桃にコロッケパンを奢ってもらおうかと」
「桃城君、最近負けがこんでるんじゃなぁい? テニス部レギュラーなんだし頑張んないと」
「わかってますよー。つーか何でそんなに速いんだよ!」
「そうねぇ、君は女の子なのに足が速いわねぇ」
そう、私ことは正真正銘の“女の子”なのでございます。
たとえ身長が171センチあろうと、ハスキーな声をしていようと、ジャニーズからスカウトされるような美少年顔をしていようと!
れっきとした女の子なんです。信じてるやつの方が少ないかもだけど。
確かに髪は短いし、普段はジャージで登下校時以外は制服も着ないし。
っていうか私があのミニスカの制服着ると変なんだって。罰ゲームで女装してる男みたいになっちゃうんだよ!
それはちょっと虚しいけどさぁ、別に女の子女の子したいわけじゃないし。
これはこれでいいかなーと思ってます。
「ほらよ、コロッケパン」
「オレンジジュースも」
「わかってるっつーの」
渋々と自動販売機でジュースを購入しているのはクラスメイトの桃城武。
入学式早々、人を男扱いしてくれたムカつく奴だが今では立派な友達である。
「ほら、」
「おーサンキュウ」
「教室戻って食おうぜ。昼休み終わっちまう」
「うぃ」
並んで歩くのはいいけどさ、桃と私だと私のほうが1センチだけ背が高いんだよね。
まったく気にしてないけどさ。・・・・・・・・・桃はかなり気にしてるみたいだけど。
今年の身体測定のときに『には負けねぇ!』とか言ってたし。でもって負けて泣き崩れてたし。
海堂にも負けてたから余計に凹んでたなぁ。
「、今日は部活だろ? 終わったらメシでも食いに行かねー?」
「平日半額ならオッケー。今月は新しい楽譜を買ったから金がないんだよねぇ」
「お、また新しい曲始めるのか?」
「つーか趣味だけど。たまにはモーニング娘。とかも弾きたくなるわけよ」
「モー娘のヴァイオリン版なんてあんのかよ〜!」
爆笑する桃城武。いや買ったのは娘じゃなくてサザンだから安心しな。
私はこんなナリでも管弦楽部に所属している。楽器はこの会話からも判るとおりヴァイオリン。
部員数は少ないんだよねぇ。10人ポッキリしかいないし。
しかも個性の強い奴らばっかりだし。みんな個人個人で練習してるから合わせるのなんて週に一度・・・・・・・・・あるかないか。
うわ、これで管弦楽部って言えるのかな。
「じゃあ部活終わりしだい正門な」
「あの小さいのも一緒?」
「越前か? たぶん来るだろうけどな、それ本人に言ったらめちゃめちゃ睨まれるぜ?」
睨まれるとか言いながらすっごい楽しそうなんですけど。
だってあの子本当にちっちゃいじゃん。150センチあるのかわかんないし。
150センチ・・・・・・私、小学校5年のときにそれぐらいあったと思うけどなぁ。
まだ身長も止まってないし、記録更新中だし。
「5時間目って英語だよな」
俺苦手なんだよなーとぼやく桃。私だって避けられるものなら避けたいっつーの。
英語は好きじゃないし、かといって国語も好きじゃないし。
音楽に国境はないのさ! ハハン!
「たしか小テストだっただろ? 俺、昨日の夜に思い出してやったから寝不足でさー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホワッツ?
「桃、それマジ?」
「は? 小テストの話か?マジだけど」
先週先生が言ってたじゃん、なんて言われても・・・・・・・・・。
お・ぼ・え・て・な・い・も・の・は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しょうがないじゃんッ!
「――――――――ヤッベーッ!!」
行きと同じように駆け出した。
焼きそばパンが揺れる。オレンジジュースが落ちる!
ぎゃあ! せっかくの戦利品が!
サッカーのリフティングの要領で蹴り上げたらちょっとへこんだけど上手くキャッチできた。
「おーすげぇ。、管弦楽部やめてサッカー部入れば?」
「誰が入るかバカ者―――――――ッ!!」
クラスまであと30メートル。
あぁこれから昼を食べながら英語をやらなきゃいけないのか・・・・・・。
なんて胃に悪そうなんだ・・・。
ちくしょう!
「ぜってー桃よりもいい点数とってやる―――――――――――ッ!」
「何だとッ!」
ぎゃあぎゃあ言いながらも二年の廊下を駆け抜けて。
この一年で見慣れた光景にみんな道を譲ってくれて。
サンキュー愛しき同窓達よ! これでさらに時間が短縮されたよ!
後は英語のテストで最低点とらないように祈っててくれたまえ!
<放課後、某ファーストフード店にて>
「「せーのッ!!」」
私・83点、桃・72点。
「よっしゃ私の勝ちー! シェイクおごり決定!!」
「げー何で付け焼刃のの方が俺より点が高いんだよ!」
「何事も要領よくやれば平均レベルはいけるのだよーだ」
「ちっくしょー!」
「イチゴ味ね、間違ってもチョコを買うなよ!」
「来週こそはぜってー勝ってやる! 見てろよっ!」
「・・・・・・・・・まだまだだね、二人とも」
2002年11月4日