著者近影





の両親は共働きをしている。父母共に公務員で、職場結婚をした口だ。故に部活のない放課後、些細な寄り道をしたとしても、は割合と早めに自宅へと帰ることにしている。途中で夕飯の材料を買い込むことと、母の干していった洗濯を取り込んで畳むことは彼女の役割となっているからだ。今日も今日とて帰宅してすぐに洗濯物を取り込んで、手早く畳んで父母と自分のとを分ける。その後で制服からルームウェアに着替え、さて愛用のパソコンを開こうかとしたところで思い出した。
「そういえば、クッキー貰ったっけ」
ひとりで過ごす時間が長くなると、必然的に独り言も増えてしまう。それはだけでなく、やはり両親共働きで家政婦はいるけれども一人っ子の聖子も同じらしく、ふたりは一緒にいてもそれぞれ独り言を呟くことが多かった。しかし互いにそれぞれコメントを返してしまうので、そこから発展する会話が楽しいのもまた事実である。
一度床に置いた鞄を持ち上げて、中から小さな紙袋を取り出す。かさかさと音を立てるその正体は、クラスメイトの滝萩之介に貰ったものだ。彼曰く「知り合いから貰ったクッキー」らしいが、詳しい経緯は知らない。女子から貰ったものなら、滝はきちんと己で処理するタイプだし、誰かに、ましてや別の女子に譲るなんて失礼なことはしないだろう。故には渡されたクッキーを訝しく思いながらも受け取った。そこには聖子の「美味しそうっすねー! 貰えるものは貰っちゃっていいんじゃないっすかー?」という後押しと、滝の「多分、さん宛だと思うし」という言葉があったからである。
何か飲み物が欲しいなぁ、と思ったので紙袋とノートパソコンを抱えてリビングへ移動する。パソコンを起動させている間にマグカップに常備している麦茶を注いで、ソファーで紙袋を開けてみた。透明なビニールの袋には、ピンクのリボンで作られた可愛らしい飾りがついている。どう見ても「誰かに贈るためのプレゼント」を自分が貰ってもいいのかと逡巡したが、手の中にあるものは仕方ない。いただきます、と手を合わせてからは封を開いた。
「凄く手作りっぽいけど・・・うーん、滝君の良心を信じて」
とりあえずチョコレート味のような色のクッキーを一枚くわえて、はパソコンと向かい合う。不味くはないけれど店で売っているものほど美味しいわけでもないクッキーは、それでもの空腹を満たすのには十分だった。かたかたとキーボードをリズミカルに叩きながら、は顔も名も知らぬクッキーの贈り主に「ごちそうさまです」と呟くのだった。





こうしてがっくんのクッキーは、何気に本人に届いたのでした。
2010年5月9日