が謝罪したことで、あからさまに安堵したような教師たち。
女性はまだ怒り足りないようだったが、それでもこれ以上声を荒げるのはさすがに大人気ないと思ったのか、横を向いて唇を閉ざす。
山城が弾かれたように自分を見るのが分かった。
けれどはそんな彼を視界に入れることさえ嫌だった。
ナツメのスーツの袖を、破きそうなくらいきつく握って。
心に広がる感情を抑えるだけで、精一杯だった。
46:エンジェル・ティアー
背中を軽く押されて、応接室から出る。
足がすごく重く感じて、気を抜けば座り込んでしまいそうだった。
教師と女性たちに頭を下げる兄を見たくなくて、見たら本当に泣きそうだから見れなくて。
大きな手が乱暴にの頭に載せられ、そのまま押さえつけられるように頭を下げさせられる。
「本当に申し訳ありませんでした」
・・・・・・ナツメの声が響く。
上級生の証である色違いの上履きが俯いた視界の中から消えて、ハイヒールの鋭い音が遠く聞こえなくなっていって。
ナツメの手が頭から退いても、は顔を上げることが出来なかった。
「それでは失礼します」
教師にも挨拶して、手を引かれるままに歩き出す。
温かい手の平が力強くて、ゆっくりと合わせてくれる歩幅が優しすぎて。
ついに零れ落ちた涙が、廊下を濡らした。
「・・・・・・・・・泣くと目が腫れてもっと不細工になるぞ」
いつもなら言い返すところなのに、今はそうやって普通に言葉をかけてくれることが嬉しくて。
引かれていた手が止まり、加減した力で握られる。
それが本当に、嬉しくて。安心できて。
伝わってくる体温が、嫌いになってないと教えてくれる。
「・・・・・・ごめ・・・っ・・・なさ・・・」
ボロボロと音を立てて涙が零れる。
ぎゅっと瞑った両瞼から溢れ、そのままの頬を伝って。
ナツメはそれをバイクに寄りかかりながら見つめていた。
職員や保護者専用の駐車場であるここには、自分たちの他に第三者の姿は無い。
それを確認してから、空いている方の手を伸ばして妹を引き寄せて。
幼い頃と同じように抱きしめ、ポンポンと背中を叩いてやる。
「バーカ。あんなババアに頭下げたところで、俺は痛くも痒くもない」
「・・・・・・けど・・・っ」
「俺のこと気にするくらいなら自分のことを考えろ。・・・・・・ったく、せっかく準レギュラーになれたってのに」
ナツメの言葉に、彼の腕の中でが身を震わせる。
そして歯を食いしばって、嗚咽を堪える。
兄はそんな妹を慈しむように笑った。
「榊さんに習ったんだろ? だったら無理しないでちゃんと泣け」
「・・・・・・っ・・・」
何でこんなに優しいのかとは思う。
・・・・・・・・・・自分は、みんなの協力を無駄にしてしまったのに。
今回の暴力事件で、は三日間の部活禁止を命じられた。
ただでさえ、準レギュラーになれたばかりだったのに。
三日の休みは痛い。それにもう、準レギュラーには戻れない。
氷帝テニス部は、実力と共に品性だって重んじる。
かつての忍足が、無断欠席で準レギュラーの資格を剥奪され、一軍を命じられたように。
きっと、自分も。
「・・・・・・ごめっ・・・」
自分のことならまだしも、榊まで馬鹿にされたのは許せなかった。
「ごめ・・・・・・なさ・・・・・・」
殴ったことは後悔していない。きっと何度同じ場面に出会っても、は同じ事をする。
だからこそ、申し訳なさが募って。
「ごめん・・・・・・っ」
きつくすがり付いて、叫ぶ。
「ごめんなさぃ・・・・・・っ!」
激しすぎるこの感情をどうすればいいのか、は知らない。
泣きじゃくる妹を抱きしめる腕を、ナツメは少しだけ強めた。
2005年12月12日