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テニス部でグレードが行われ、準レギュラーが数人入れ替わったという事実は、すぐに広まった。
朝練を終えて昇降口から教室へ向かう途中も、遠巻きにチラチラと視線が向けられる。
昭乃は内心で眉を顰め、ジローは関係ないという風に大欠伸をして。
けれど教室のドアを開けた瞬間、今度は一気にクラスメイトたちに囲まれた。
「なぁおまえら二人とも準レギュラーになったんだって!?」
「すげぇじゃん! うちのテニス部って全国レベルだろ!?」
「おめでとう、久堂君、芥川君!」
「今度、練習見に行ってもいい? あ、もちろん差し入れも持ってくから!」
シャワーのように降りかかってくるのは、どれも温かな祝いの言葉。
一瞬驚いた後で、昭乃とジローは顔を見合わせて照れ臭そうに笑った。





44:光と闇





「実力で準レギュになったわけじゃねーくせに、いい気になってんじゃねーよ」
その言葉に、足を止めざるを得なかった。
聞き捨てならない発言に、左足を引くことで振り返る。
自然と腕の中にある教科書とノートをきつく握りしめた。
「・・・・・・それはどういう意味ですか?」
「言った通りの意味だろ。実力じゃねーくせにデカイ顔すんな」
「山城先輩」
昭乃の声が格段に低くなり、冷ややかさを帯びる。
休み時間の今、廊下には多くの生徒が行き来していた。
けれど昭乃と山城の間に走る剣呑な空気を読み取ったのか、彼らの足音が静かになり、やがて止まる。
角を曲がった方にある教室から聞こえてくる話し声が、やけに遠くに感じた。
ジローが眉を顰めて、昭乃のワイシャツの袖を引く。
けれど、そんなことに構っていられない。
大切なものを馬鹿にされ、黙っていられるほど昭乃の矜持は低くない。
「・・・・・・俺が実力で勝ったのは、対戦したあなたが一番分かってると思いますけど」
「ムカつくんだよ、テメェ。どうせ俺に勝ったのだってマグレだろ」
「マグレでも何でも、勝ちは勝ちです。氷帝テニス部ではたった一度のでも、勝敗がすべてだってことは先輩だって知っているでしょう?」
「・・・・・・マジムカつく」
「ムカつくのはこっちです」
頭のどこかで止める声がするのに、抑えきれない。
自分の気持ちも、相手の感情も、この場の状況も全部分かっているというのに。
昭乃の中の大事なものが貶される事実に、プライドが黙っていられなかった。
「俺に負けて準レギュ落ちしたからって、逆恨みしないでもらえませんか?」
「――――――てめ・・・っ!」
図星を言い当てられて、これまで言葉だけだった怒りが態度に表れた。
山城が乱暴に昭乃の腕を引き、そのまま殴ろうと拳を構える。
ジローが止めに入ろうとするのや、周囲の生徒から上がる悲鳴とか、迫ってくる拳を、昭乃はただスローモーションのように眺めていて。
怒声が、耳を劈く。



「その女みてーな顔で榊監督に取り入ってるくせに生意気なんだよ!」



・・・・・・・・・頭が真っ白になって。
気がつけば、殴られる前に殴っていた。





2005年7月17日