氷帝で見る、二度目の桜。
去年散っていく花びらを眺めたとき、胸に巣食っていたのは不安と緊張だけだった。
けれど今は違う。
「!」
名を呼んでくれる、仲間がいる。
41:それは舞い落ちる桜のように
春休みが終わり、始業式の当日。
昇降口の掲示板に張られていたクラス変えの発表を見て、ジローは目を丸くした。
新たなクラスごとに生徒の名前が列挙されていて、その中のA組に、ジローの名前はあった。
――――――そして。
「・・・・・・同じクラスだぁ・・・」
どことなく泣きそうな、嬉しさと戸惑いが混ざったような声でジローが呟く。
は彼の隣でそれを聞き、苦笑しながら肩を竦めた。
「俺と同じクラスは嫌?」
「嫌じゃないっ! だけどまさか・・・・・・同じクラスになれると思ってなかったし・・・」
真剣に否定し、そしてやはり泣き出しそうな顔で笑う。
クラス発表を見に来ている生徒たちでごった返している中、小さな声で思いを吐露した。
「・・・・・・・・・だって俺、の秘密知っちゃってるから、だからきっと別のクラスにさせられちゃうんだろうなぁ、って」
ジローはが氷帝の理事や校長の協力を得て、男として入学したことを知っている。
だからこそ、その秘密を知った自分をの近くに置いておく筈がない。
そう考えたジローの気持ちが判って、は笑みを消した。
きっとこれは母の配慮だろう。自分がジローのことを頼りにしていると言ったから、手を回してくれたに違いない。
「ジロー」
最初はクラスメイトで、次に部活仲間で、そして秘密の共有者。
けれど今では親友だと思っている相手に、は満面の笑みを浮かべて。
「今年も一年間よろしく」
「―――うん!」
気の置けない顔で二人は笑い合った。
始業式が終わり数日も経つと、一年生の仮入部期間が始まる。
今年も昨年以上にわらわらと希望者が集まってきているのを見て、忍足が含むように笑った。
「今年も大漁やな。まぁ最初だけやろうけど」
「俺らの学年もずいぶん減ったしなー」
向日も同調して頷く。
目の前に集まってきている新一年生は、おそらく100名くらいいるだろう。や忍足たちの年も、新入部員はそれくらいだった。
けれど一年経った今では、その数はすでに70名程度に減っている。
氷帝テニス部の厳しい練習についてこれなかった者、度重なるグレードで己の限界を知り辞めていった者。
さまざまな理由があるだろうけれど、30名ほどの仲間が退部していったのは事実だ。
二年は70名。そして三年は30名も残っていない。
それが氷帝テニス部のクラス制度による結果であり、だからこそ残った者が強者と言われる所以だった。
「あ、跡部だ」
向日が指を刺した方向では、跡部が去年の部長と同じように挨拶をしている姿が見える。
もそちらの方へ目をやって、新たな後輩たちの中に見たことのある人物がいるのに気づいた。
中学一年生にしては高い身長。そして、その隣にいる姿勢の良い少年。
間違いなく、それは三月に会った相手。新入生説明会に来て、氷帝の中等部で迷っていた後輩たち。
「・・・・・・テニス部希望だったんだ」
はそれだけ呟いて場を離れ、ラケットを手に自らの練習に向かった。
二度目の春がスタートする。
2005年6月4日