卒業式も終えて、三年生はいなくなってしまった。
三月が終わればは二年に進級し、後輩を持つことになる。
慣れない感覚は少し気恥ずかしくて、けれど楽しみだ。
「来年も同じクラスになれるといいね」
ジローが笑って言った。
けれどその顔はどこか寂しげな様子だった。





39:一年の終わり





「一年が入ってきたら、またグレードのやり直しだなー」
そう言う向日は、一月にあったグレードでブロック3位の成績だった。
アクロバティックなプレーを信条としている彼は今もめきめきと上達していて、次のグレードではきっと準レギュラーへの挑戦権を得るだろう。
そしてそれはボレーに磨きをかけているジローも同じ。
「知ってるやつが入ってくるかな」
「入ってきても分からへんし。俺とは外部組やもんな」
「そーいやそうだったっけ。何かすっかり忘れてた」
向日が今気づいたように言うくらい、彼らは共にいることが自然になっていた。
割と初めの頃から仲のよかった向日・忍足・・ジローに、今は跡部と宍戸が加わって。
六人でいることが当たり前のようになっている。そしてそれはとても楽しい。
と向日とジローは一軍で、忍足と宍戸と跡部は正レギュラーだけれども、部活を離れればそんなことは関係ない。
食べ放題に遊園地や映画など、色気のない遊びばかりしている仲だ。
「来年は姉妹校研修旅行や修学旅行もあるんだよな」
「アーン? 海外だろ、今更だな」
「自由行動の班って同じクラスのヤツとしか組めないんだっけ?」
「どうなんやろな。俺、先輩らと交流とかないから分からんわ」
「・・・・・・忍足、おまえもっと交友関係広げろよ」
「薄っぺらな関係なんやったら、ない方がマシや」
キッパリと言い切る様は男らしいというよりも子供に近い。
けれどそれは四月の頃の執着心のない忍足と比べれば、喜ぶべき変化だ。
最初は周囲を見下していた感のあった跡部も、今は口で何だかんだ言いながらも付き合いよく彼らといる。
浮かべられる笑みは皮肉めいたものではなく、どことなく楽しそうな色の混ざったもので。
宍戸はそんな彼の変化が俄かに信じられなかったが、今は良いものだと感じている。
そして、もそれは同じだった。



榊の元でテニスをすることが出来て。
高い階段を上がれた喜び。
一人にはバレてしまったけれど、隠し通せた秘密。
そして何より。
・・・・・・こんなに良い、仲間に出会えた。
それが何より嬉しい。



「なぁ、春休みには中華の食べ放題に行こうぜ!」
向日の提案に跡部と宍戸は「また食べ物か」と顔をしかめる。
「おーええで。ほな横浜中華街やな」
「俺、杏仁ソフト食べたい」
「そりゃ邪道やろ。大人しゅう杏仁豆腐にしとき」
忍足は無責任に賛同し、ジローはすでに何を食べるか考えている。
温かくて心地よい空間。だからこそずっと一緒にいたい。
はまるで眩しいものでも見るかのように目を細めて。
気づいて差し出される手の平に、ひどく泣きそうになった。



「行こう、



みんなと笑い合える場所へ。





の最初の一年はこうして終わり、また新たな年が始まろうとしている。





2005年4月24日