終業式を終えた三日後、跡部の命令通りにたちは彼に付き合うことになった。
「代金は全部跡部持ちだからいーじゃん」とは、そういう風に事を運んだ感のある向日の言葉で。
はとりあえず白のコートを羽織り、約束の時間に間に合うようにマンションを出る。



見上げた空はホワイトクリスマスとは程遠い快晴だった。





33:俺に躍れと?





「ねぇ、誰か待ってんの?」
そう声をかけられたとき、は自分に向けてではないだろうと思って無視をした。
けれどもう一度、今度はさっきよりも近くで声が聞こえて顔を上げる。
「俺さ、彼女にドタキャンされちゃって寂しいんだー。良かったらカラオケとかで憂さ晴らしに付き合ってくれない?」
「・・・・・・え?」
「何だったらメシも奢るし、どう?」
話しかけてきたのは、大学生くらいだろう背の高い男だった。
茶色に染められた髪は長めで、耳元にはピアスが光っている。柔らかなベージュのジャケットは趣味がいいな、などとは考えて。
ニコニコと笑っている相手に、どうしよう、と小首を傾げる。
断ることは決まっているのだ。だって後数分もすれば待ち合わせの時刻になってみんなが現れるだろうから。
ただ、にはこの男が話しかけてきた目的が分からなかった。
だから一瞬反応が遅れてしまって。
「よし、決まり! じゃあ行こう」
急に力強い手でコートの上から腕をつかまれ、思わぬ事態に焦ったとき。



「何やってんだよ、



名前を呼ばれてが顔を上げる。連れて行こうとしていた男もそれに気づいたのかこちらを向いて。
黒のジップアップブルゾンに身を包んだ少年は、呆れたように二人を見ている。
「宍戸」
本当にいろいろと突然に事が起こるので、はただ流されるしかない。
けれど男はそんなと宍戸を見比べて、チッと舌打ちをして手を放した。
「んだよ、男持ちかよ」
「・・・・・・分かったならもういいだろ」
「チッ! ガキのくせに生意気なんだよ」
乱暴にそれだけ言い捨ててさっさと人込みに紛れていく。
は不思議そうな表情を浮かべたままでそれを見送って。
宍戸はそんな様子を横目で見ながら、呆れたようにボソッと呟いた。



「おまえ、男のくせして男にナンパされてどーすんだよ」



実はかなり拙い事態だったことにが気づくのは、30秒後のこと。





2004年11月28日