「おい。おまえら25日付き合え」
この12月の最中、屋上での昼食はさすがに厳しい。
なので学食でランチをしていた向日・忍足・ジロー・の元に、突然割り込んできて彼は言った。
横柄な物言いだが、それとは逆にやけに切羽詰った印象を受けて、向日が首を傾げる。
「何だよ突然。俺たちにも予定ってのが」
「いいから付き合え!」
問答無用すぎる勢いに、思わず四人は身を引いて。
12月の初め、跡部はものすごく焦っていた。
32:キャンドルに灯を点けろ
「嫌や」
ハッキリと断ったのは忍足が最初だった。
中華風あんかけ定食を食べながら、行儀悪く箸で跡部を指し示して。
わざとらしい動作で可愛らしく首を傾げる。
「何で、俺が、わざわざ、自分に付き合うてやらなあかんの? しかもクリスマスにや」
「・・・・・・・・・」
「俺もヤー」
続いて拒否の声を上げたのは、意外にもクラブサンドセットをもぐもぐと食べていたジローである。
「俺、クリスマスはと帝国ホテルのケーキバイキングに行くし」
「・・・・・・・・・」
「だから行こー、」
「今から約束するんかい!」
ビシッとツッコム忍足を背景に、ジローはニコニコと笑ってを誘う。
テーブルについている跡部の手が微かに震えていて、はどう答えたものかと曖昧に笑った。
醤油ラーメンの大盛りを食べ終え、デザートのイチゴソフトクリームを舐めていた向日は、跡部の横顔に何かを思い出したのか。
「・・・・・・・・・あ、そっか」
呟きに三人が振り返る。
「ひょっとして跡部、25日にパーティーか何かに出ろって言われてんの?」
パーティ? と首をかしげて彼らは跡部に視線を移す。
ピクッと反応した肩が、図星だと語っていた。
跡部景吾といえば、氷帝ではテニス部の部長である次に有名なことがある。
それは、彼があの有名な跡部グループの跡取りだということだ。
しかも一人息子。小さい頃から帝王学を仕込まれて将来の社長の椅子は間違いないと言われている。
金持ちのご子息ご息女ばかりが通っている氷帝の中でも、トップクラスのサラブレッド。
だからこそ、彼について回る制約は少なくなかった。
「・・・・・・両親に言われてるなら、出ないと不味いんじゃないのか?」
少なくとも自分は、実家にいた頃に両親から誘われたパーティーや会合は一度も断らなかった筈。
それはやはり両親の顔を立てるためでもあったし、何より仕事で忙しい父や母と一緒にいられるのは嬉しかったから。
は自身の過去と照らし合わせてそう言ったが、ギロッと跡部に睨まれて軽く身を仰け反らした。
「・・・・・・ふざけんな。おまえ、俺のこの冬の予定を知ってて言ってんのか?」
「いや、知ってるわけないだろ」
は当然首を振るが、跡部は端正な顔を歪めて続ける。
「23日の休み初日から全部予定が入ってやがる。総会の顔見せやら新年会やら腐るほどだ」
「ええとこの坊ちゃんは大変やなぁ」
労わる気など欠片さえもない満面の笑みを浮かべて、忍足が跡部に言い放つ。
両親のことを吐露してからこちら、忍足は本当に遠慮なく跡部やたちに接するようになった。
彼曰く、『身内にええ顔すんのは止めたんや』ということらしいけれども。
「忍足はクリスマスはどうすんだよ?」
「俺はお袋が美術愛好家のママさんらとお食事っちゅうてたから、適当に済ますつもりや。向日はどうなん?」
「俺は家でケーキ食って特番見んの」
「お互いシケたクリスマスやなぁ」
朗らかに流れていく会話を止めるべきなのだろうか、と跡部をチラリと伺いながらは思う。
「じゃあ忍足と向日も一緒にケーキバイキング行くー?」
「お、それもええな。男四人でクリスマスにケーキバイキング。彼氏もちのお姉さんの視線を釘付けや」
「あはは! いいじゃん、俺も行く!」
「じゃあけってー!」
「けってー!」
勝手にクリスマスの予定が決定されたとき。
ダンッ
「―――ケーキでも何でも奢ってやるから俺様に付き合いやがれ!!」
無視されていい加減に頭にきたのか、跡部によって学食のテーブルが揺れた。
ニヤッと笑みを浮かべたジローと向日を視界の隅に納めて、は何だかなぁ、と思った。
2004年11月28日