十二月を間近に控えた季節。
期末テストのために部活が一週間活動禁止となった中で、は裏庭のクレイコートに向かって歩いていた。
練習しようと思っているわけではなく、ただ何となくだけれども。
多くの生徒が校門へと向かっていく流れから外れて、慣れたテニス部の領域に足を踏み入れる。
そのとき、微かな音が聞こえてきては首を傾げた。



誰もいないはずのコートから、ボールの弾む音がする。





31:テニス馬鹿





一軍・二軍・三軍が使用を義務付けられているコートには、いるべきじゃない人物がいた。
ラインからトスアップし、鋭いサーブを繰り返し放っている。
仮入部の日からずいぶんと長くなった髪に、は見覚えがあった。
コーナーよりも少し手前で、力強いサーブが決まって。
「・・・・・・宍戸」
大きくはない呟きにコートにいた人物が振り返る。
そしてを見とめると、少しの間の後でバツが悪そうに頭を掻いた。
「何やってんだよ。テスト前だから部活は禁止だろ?」
宍戸の仕種に思わず笑って、は自分もクレイコートに足を踏み入れた。
ラケットを立てるのが癖なのか、宍戸は誤魔化すように右指でその癖を示して。
「・・・・・・少しでもテニスしねぇと落ち着かねーんだよ」
「宍戸って、結構テニス馬鹿?」
「あぁ、そうだろうな」
からかう意味で投げかけた言葉を素直に肯定されて、は少し驚いた。
認めた宍戸自身、照れたような、それでも誇らしいような笑みを浮かべていて。
だからも嬉しくなって、着ていたブレザーを脱いで鞄からラケットを取り出した。
「・・・・・・ラリー、付き合おうか?」
テスト前で部活が出来ないと判っていても、ラケットを持ってきてしまうほど。
「俺も、テニス馬鹿だから」
と宍戸は互いに顔を見合わせて笑い合った。



宍戸とは同時期に同じクラスに属したことがないので、今まで一度も打ち合ったことはなかった。
返ってくるボールをラケットに当てながら、宍戸はそんなことを考える。
初等部からの知り合いである向日とジローがと仲が良いから、話には結構聞いている。
コントロールが良いとか、でも体力がないとか、榊のことが大好きとか。
顔が綺麗とか、笑うと女の子みたいだとか、でもすごくカッコイイとか。
トータルで総合すれば、二人は声を揃えて言っていた。
はすごくイイ奴!』―――と。



「・・・・・・っ」
考え事をしながらプレイしていたからか、の放ったボールが綺麗に宍戸の横を抜けていった。
転がるボールを拾いに足を向けて、あることに気づく。
ハードコートではなく、クレイコート。
そのライン際に跡はなかった。



ボールは、ライン上でバウンドし、転がっていた。



「――――――」
「宍戸! 悪い、ちょっと休憩・・・っ」
信じられない事実に弾かれて振り向けば、宍戸を驚かせた張本人は制服のネクタイを緩めて肩で息をしている。
『疲れマシタ』と全身で表現していると、彼の正確すぎるコントロールのギャップに宍戸は思わず呆けて。
そして楽しそうに笑った。





2004年11月17日