十一月まであと一週間。
秋の新人戦がようやく始まった。
地区予選・都大会と順調に勝ち進んだ氷帝は、関東大会の舞台へと上がる。
コートに立つことは出来ないけれど、応援も絶対に必要。
はジローたちと共にフェンスの周りに立って、次の試合が始まるのを待った。
今大会屈指の好カード。



氷帝学園VS立海大付属中





27:立海大学付属中学校





「スッゲー!」
試合が始まった途端、いつも興味のあること以外には反応しないジローが、急激にテンションを高めた。
や忍足、付き合いの長い向日さえも引いた中で、彼を目覚めさせた原因はただ一つ。
、今のボレー見た!? チョーカッコイイ! ボールがコロコロって! コロコロってネットの上転がって、鉄柱に当たった!!」
「・・・・・・・・・あぁ、当たったな・・・」
「マジマジ!? 俺、あんなの初めて見た! すっげー! あんなボレーもありなんだ!」
「・・・・・・・・・」
「カッコイー! あの技、名前なんて言うんだろ!?」
ここで止めなくてはいけなかったのだが、たちだけでなく周囲の氷帝部員たちも、ジローのあまりの変わり様に度肝を抜かれていて。
コートとギャラリーを遮るフェンスにしがみついて、ジローが叫ぶ。
「ねーねー! 今の技、なんて言うのー!?」
試合真っ最中の選手に向かって、直接。
「――――――バ、バカ! 試合中に話しかけるなよっ!」
我に返ったが慌てて止めたが、意外にもコートから明るい声が返ってきた。
「今のは俺の絶技・綱渡り&鉄柱当て! どう、天才的?」
試合中にも関わらずプゥッと風船ガムを膨らましながら質問に答えたプレイヤーに、は呆然とし、ジローは何度も首を縦に振る。
「すっげーカッコイイ! 俺、氷帝のジロー!」
「俺は立海のブン太!」
「へへ、よろしく!」
「シクヨロー!」
当の二人は周囲を尻目に、ものすごく和やかだ。
けれど審判はそれを見過ごしているわけにはいかず、あまりない事態に動揺しながらも試合を再開するように告げる。
ブン太と名乗ったプレイヤーは、またしてもガムを膨らませながらラケットを構えて。
ハーフらしい留学生のプレイヤーと、息の合ったダブルスを展開する。
「・・・・・・
レベルの高い試合―――先ほどのやり取りはともかく―――に見入っていた中、名前を呼ばれては隣を振り返った。
まっすぐな目でコートを見据え、ジローが口を開く。



「決めた。俺、ボレーヤーになる」



決意を語った瞳は、キラキラと光に輝いていた。



ゲームは立海大がリード。
シングルス3まで終わり、立海が2勝して関東大会優勝に王手をかけている。
次で勝たないとシングルス1まで回らない。
回りさえすれば跡部が勝利をもぎ取るのに。はそう思ってかすかに眉を顰めた。
女関係は理解することが出来ないけれど、跡部のテニスは確かな実力を持っている。
もそれだけは認めているから。
手を洗い、周囲に人がいないことを確認してトイレから駆け出る。
自分が女子トイレに入るところを目撃されないように遠くまで来ていたので、コートに戻るには時間がかかってしまうかもしれない。
シングルス1に間に合えばいいけれど。
そう思って走っていたとき。



「・・・・・・ちゃん?」



呼ばれないはずの、呼ばれてはならないはずの名前で問われて。
は反射的に足を止めてしまった。





2004年9月21日