「なぁなぁ! 跡部に彼女出来たって聞いた!?」
昼休みに屋上でのんびり昼食を取っていたとき。
向日の持ち込んだ最新ニュースには驚き、忍足は目を細め、ジローは寝たまま。
三人は三者三様の反応を返した。
25:価値観
購買で大人気のミックスサンドの具が落ちかけて、は慌てて唇でそれを防いだ。
もぐもぐと咀嚼している間に、忍足が興味深そうに質問を投げかける。
「向日、それホンマなんか?」
「マジだって! ついさっき二人して学食でメシ食ってたし、しかもあれ多分お手製弁当だろうし!」
「・・・・・・氷帝に料理の出来る女なんかおるわけないやろ」
「だよなー。どうせシェフとかに作らせたんだろうけど」
何だか失礼なことを言っている、とはサンドイッチを食べ続けながら思った。
たしかに氷帝学園には都内だけではなく全国から有数のご子息ご令嬢が通ってきている。
彼らはまず間違いなく家に専属の家政婦やシェフを抱えているだろうが、料理くらい出来る者も中にはいないこともないだろう。
そう考える自身は、一人暮らしをするようになってからキッチンに立つようになったのだけれど。
「で、相手は誰なん?」
尋ねられ、向日は購買デリバリーのカレーピラフを頬張りながら答える。
「三年の、金堂清香」
「あぁ、あの金堂グループの。ほな、なおさら手作り弁当はありえへんな」
「俺もそう思う」
金堂グループっていえば結構有名だし、そこのお嬢様が料理なんてするわけがないだろう。
向日と忍足はそう結論付けて、各々の昼食を平らげることに専念しだした。
はようやくミックスサンドを食べ終えて。
「・・・・・・跡部って、その金堂さんのことが好きだったんだ?」
ポツンと呟く。
そして勢いよく脱力された。
「・・・・・・あんな、」
両親への不満を一気にぶちまけてからこっち、母親手製の弁当を持参するようになった忍足が、頭を抱えて溜息をつく。
はそんな仕種の意味が分からず、牛乳のパックを手にしながら小首をかしげて。
「だって好きだから付き合うんだろ?」
「・・・・・・まぁ、それが基本やけどな。せやけど跡部は違うと思うで。どうせスケープゴートに選んだんやろ」
「跡部はあれでも女にモテるからさー、そういうの面倒くさくて彼女を作ったんじゃん?」
「・・・・・・面倒くさくて?」
「そう。彼女がいれば、告白されても『彼女がいるから』って断れるし」
「でも、それって」
不思議というよりも不可思議な顔をして、は眉間に皺を寄せた。
「そういう気持ちで付き合うのって、相手に失礼だろ」
不愉快そうな声音に、忍足と向日が顔を見合わせた。
スヤスヤと惰眠を貪っていたジローが、うっすらと目を開いた。
2004年9月6日