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グレードはすべて行われ、新たなクラスが決まった。
跡部はやはり頂点に君臨し、宍戸は準レギュラーに、昭乃とジロー、向日は一軍に。
そして忍足は。



あの試合以来、テニス部に顔を出していない。





21:忍足侑士というひと





「・・・・・・」
H組の前の廊下で、昭乃は開かれたドアからチラッと中を覗き込んだ。
休み時間中だからか、生徒たちが各々喋ったり、本を読んだりと気ままな時間を過ごしている。
その中に目当ての人物を見つけることが出来なくて、昭乃は無意識のうちに肩を落とした。
「誰を探しとるん?」
「忍足を・・・・・・」
「ほー」
「・・・・・・・・・」
微妙な間と、背後の気配に思わず固まる。
バッと振り返れば、そこには丸い眼鏡と見慣れた笑顔があって。
予想と違い穏やかな顔に、安心するよりも先に心が騒いだ。
「・・・久しぶりやな」
そう言う忍足の胸を、軽い拳で殴ることで応える。
震えている昭乃の手に気づいて、忍足は柔らかく目を細めた。



授業をサボるわけにもいかず、昼休みに忍足と昭乃は屋上に足を運んだ。
風の強い日だからか、そこには誰もいなく、青い空だけが広がっている。
何を話せば良いのか言葉を選んでいる間に、忍足の方が口を開いた。
「久しぶりやな、久堂」
先程も聞いた挨拶が、他人行儀で少し寂しい。
「テニス部はどうや。もう一軍には慣れたん?」
「・・・・・・忍足」
呼んだ名は無意識のうちに諌めるような響きを持ってしまい、昭乃自身、歯がゆく思う。
こんなことが話したいわけじゃないのに。
気持ちが上手く働かなくて、押し留めるべき感情が溢れてしまう。
「・・・・・・そんな顔、せんといてや」
手を伸ばして頭を撫でてくる忍足を、優しい人だと昭乃は思う。



忍足との試合の最中、跡部が言った。
『誰と戦ってんだよ』―――と。
昭乃にはその言葉の意味が分からなかった。
けれど忍足はそう言われた後、目に見えて動きが落ちたのだ。
彼の心を跡部が乱したのは事実。
だからこそ気になってしまって。



夏休みに、兄のナツメが言っていたことを思い出す。



兄は忍足のことを知っていた風だった。
だから、電話して聞いた。
忍足のことを。



そこで知った、彼。



「俺な、大嫌いなヤツがおるんや」
そう言う彼があまりに穏やかだったから。
自分のことではないのに。
自分が泣く資格はないのに。
昭乃は堪えきれなくて俯いた。
噛み締めた唇と、握り締めた拳が痛みを訴えて。
忍足は笑う。



「跡部は、俺の大嫌いな親父にソックリなんや」





2004年7月15日