三年生がいなくなった部活では、また新たなる戦いが始まる。
十月に行われる新人戦を目指して。



今年二回目の火蓋が、切って落とされる。





19:火種





「ウォン・バイ・!」
宣言された勝利には両拳を握りしめて喜んだ。
ゲームカウントは6−4。ハッキリ言って完全な勝利じゃない。
だけど勝ったのだ。勝ったのは事実だ。
これで割り振られたリーグで首位の座についた。



一軍に、上がれる。



、おめでと!」
後ろからガバッと抱きつかれて、は足下をふらつかせながらも、どうにか堪えて。
「これで一軍じゃん! また一緒に練習できるね!」
「あ、ジローも決まったんだ?」
「もち! さっきCリーグで勝ってきた!」
満面の笑みでジローが己の勝利を告げる。
「向日もいい感じだったから、たぶん三人して一軍に上がれるよ」
「そっか、また一緒だな」
「うん!」
互いの健闘を讃え合って、コートから去る。
上に昇れるという高揚に、二人の頬が熱くなっていた。



夏休みの最後一週間を使って、氷帝テニス部では今年二回目のグレードが行われていた。
三年生が抜け、今の部員数は約150名。それを新人戦に向けて気持ち新たにクラス分けするのだ。
60名の選手がいる二軍を6つに分け、それぞれでリーグ戦が行われた結果、はそのリーグのトップに立った。
これで一軍への昇格は確定。
すぐに準レギュラーになるのは無理だろうが、新人戦は十月。それまでに時間はある。
可能性が上がった。それがにとっては嬉しかった。
とジローと向日は揃って一軍への昇格を決めた。
――――――そして。



どよめきが部員たちの間に広がった。
その中で忍足は一人、片口を上げて挑発的に笑む。
少し考えた後で、榊は許可を出した。
それを受け止めて、さらに笑う。



「ほな、始めようか」



余裕の眼差しで自分を見てくる跡部に、内心で吐き捨てて。
下克上が、始まる。





2004年6月5日