結果として、氷帝学園は全国ベスト16に終わった。
これで三年生は引退する。
部長の座には実力以外の何物も必要なく、それはとても自然に跡部へと引き継がれた。
全国大会でチームとしては負けたけれど、彼は一敗もしなかったのだから。
以前はあった反発も、今ではすでになくなっていた。
跡部が、名実共に氷帝のトップに立つ。
15:BE PROUD
三年生がいなくなったテニス部では、夏休み後半に今年二回目のグレートが行われる予定だ。
そのために今彼らは、必死で練習に取り組んでいる。
今日の部活を終えればひとまず夏休み前半の練習は終了。
与えられるしばしの休みを前に、誰もが気合を入れて部活に臨んでいた。
「よし、今日はもう上がっていい。休み中も自主練に励むように」
「「「「「ありがとうございましたっ!」」」」」
榊の言葉に勢い良く頭を下げ、そして一気に騒ぎ出す。
うるさくなった部員たちの、けれど中学生らしい様子に、榊も微笑を浮かべながらコートを後にした。
「なぁなぁ、ジロー! どっか寄ってかねー?」
厳しい練習を終えたばかりだというのに、うきうきと体力の有り余っていそうなほど上機嫌で向日が誘う。
「は明日はもうアメリカに帰っちゃうんだろ? だったら今日だけでもさ」
「ん、オッケー。どこ行く?」
「俺、おなかへったから何か食べたい」
が了解すれば、ジローも同じようにイエスと答えて。
向日は振り返ってさらに声をかける。
「なぁ、忍足も行こうぜ」
「どこにや?」
「とりあえず食いに!」
健全な青少年らしい返事に忍足は笑って、そのまま首を縦に振る。
「ええよ。食い倒れツアー、付き合うたる」
「よし、 じゃあ着替えて出発な!」
今にもスキップをしそうな足取りで、向日が部室へと走っていく。
ジローはかすかに眠そうな目を擦りながら、それでも食い気を主張して。
「ケーキ食べたい」
意外にも甘党なりクエストに、は小さく頬を引き攣らせた。
「男四人でケーキ・・・・・・」
あまり想像したくない。部活帰りの少年が、四人揃って可愛らしいケーキを頬張っている姿なんて。
忍足も同じことを考えたのか苦笑を浮かべて、けれどフォローにまわる。
「まぁ、俺ら美形やから許されるやろ」
「良くないって、それ」
「ハハ、ほなまた後でな」
まだグレート前なのでランクの違う彼らは部室も違う。
は忍足に軽く手を挙げて別れた。
そのまま二軍用の部室に戻り、教室に用があるからと言ってバッグを手に部室を出る。
「校門で待ってるから早く来いよ」という向日の言葉に笑って。
「後はまかせて。気をつけてね」というジローの眼差しに頷いて。
女であることがバレないように、保健室へと行って着替えるのだ。
吹奏楽部が練習しているのか、校内に足を踏み入れると、遠くから楽器の音色が聞こえてくる。
外とは違って涼しい廊下で、は自分の向かう先から誰かが来るのに気づいた。
同じテニス部のジャージ。
顔など見えなくても、誰だか分かった。
挨拶するべきかどうか迷ってから、結局素通りすることに決める。
声を掛け合うほどに親しくもない。
肩にかけているバッグを、もう一度かけなおして。
「――――――おい」
通り過ぎてからかけられた言葉に、は振り返った。
自信を形にしたかのような顔で相手は笑って。
「チャンス、活かしてみせたぜ?」
言うだけ言って、こちらの返事などお構い無しに背を向ける。
は一瞬呆けて、そして思わず口元を綻ばせた。
湧き上がってくる笑みを、手で押さえることでどうにか堪えて。
「・・・・・・・・・すぐに引き摺り下ろしてやる」
目的も新たには囁き、そして同じように跡部に背を向けて歩き始めた。
常に自分を誇れる、氷帝テニス部員であるために。
2004年5月19日