正直、男の制服を着て、男のように振舞うには違和感がありすぎる。
けれどそれすらもどうにかするのだと、は決めていたのだ。
基本的に声はアルトでそう高くはないし、顔も少女すぎるほど少女顔ではない。
男と意識させることが出来れば、後はどうとでもなる。
少し自棄のような覚悟を決めては笑った。
です。部活はテニス部に入ろうと思っています。一年間、どうぞよろしくお願いします」
という名前を隠して、という名前を名乗って。
これも全部テニス部に入るため。



榊太郎の下で、テニスを学ぶため。





02:踏み出すための覚悟





入学式の後で行われたホームルームは、やはり初めてということもあり自己紹介から始まった。
40人学級の7割が初等部からの持ち上がりということもあり、必然的に視線は外部から来た生徒に集中する。
人に見られるのは少し緊張もするけれど、これから一年間を過ごしていくクラスだから、出来る限り仲良くしていきたい。
自分が女だということがバレないような、そんなクラスだと良いけれど。
はそう考えながら一礼し、早足で教卓から自分の席へと戻った。
自然と熱を持ってしまう頬を、頬杖をつくことで誤魔化したりなどして。
隣の席の女子と目が合って、思わずどうしようかと迷ってしまった。
今までの自分は女子だったから、隣の席には大抵の場合男子が座っていたし、まさかこんな事態になるとも思っていなかったから。
「ねぇねぇ、君」
「・・・・・・何?」
男子は普通どうやって答えたりするんだろうか。は内心で非常に焦りながらも、とりあえず返事を返す。
君って外部組だよね? 私、持ち上がりなの。分からないこととかあったら何でも聞いて?」
「え、あー・・・ありがと」
名前が分からなかったので、礼を言って笑ってみる。
そうすると相手の女子も笑ってくれたので、これでオッケーなのかな、なんては思った。
壇上ではやけに眠そうな声がして、そちらへ視線を移すと、髪の毛がクルクルした男子が、これまた眠そうに自己紹介をしていた。
半ば寝言のような感じで聞き取れないけれど、生徒や教師が何も言わない限り、おそらくこれは普通の状態なのだろう。
自分よりも背が低いかもしれない。はそう見定めて安心したように肩を撫で下ろした。
「彼はね、芥川慈郎君」
先ほど声をかけてきた隣席の女生徒が、壇上にいる生徒を指差しながら笑う。
「初等部のころからああでね、いっつも寝てるか眠そうなの。でもね、起きるとすっごくテンションが高いんだよ」
「へー・・・・・・ちょっと面白そう」
それと同時に変かもしれないけど。内心でそう思っていると、女生徒はさらに付け足して。
「芥川君もね、たぶんテニス部に入るんじゃないかな。テニスやってるって聞いたことがあるし」
「・・・・・・へぇ」
自然と声が低くなるのが、自身にも分かった。
「氷帝のテニス部って、やっぱり有名なんだ?」
入学式のときの忍足、そして同じクラスの芥川。自分を含めて三人がすでにテニス関係に属している。
これでこそ来た甲斐がある。そう思うのと同時に、言い知れない不安が心の中を覆って。
どこまで通じることが出来るのだろうかと思う。



女である自分が、彼らの中に混ざって。



女生徒は、の心配など他所に話を続ける。
「うん、だってテニス部は全国レベルだもの。他にもテニス部に入る子、いっぱいいるみたいだし」
「競争率、高そうだなぁ」
「部員200人だからね」
多すぎだよ、と言い合っては女生徒と笑った。
壇上では眠さのあまり、立ったまま眠りに入った芥川が教師によって座席へと連れ戻されている。
そんな彼を視界の隅で確認しながら、は焦りに脈打つ心臓を治めようと、膝の上で拳を握った。



不安と心配が入り乱れ、まるで問いただされているよう。
「おまえは本当に男としてやっていけるのか」――――――と。





2004年4月11日