00:プロローグ
すごく悔しくて、けれど笑うしかなかった。
そうする以外にどうすればいいのかなんて分からなかった。
心配をさせたくない。思うのはただ、それだけで。
込み上げてくる熱さを必死に抑えた。
そんな私に、あの人は言った。
「泣きたいならば、堪えずに泣けばいい。だが決してその悔しさを忘れるな。
自分が更なる高みを目指すために」
涙が零れて。
声をあげて泣いたのは、それが初めてだった。
そして私は選んだ。
今までの、これからの人生を合わせても、きっと敵うものはないだろう決断を。
私自身のために、下した。
長かった髪をバッサリと切り。
スカートじゃなく、ズボンに身を包んで。
背を伸ばして、顎を引いて、一歩を踏み出す。
男として、男子テニス部に入部するために。
すべての意志と、ただひたすらの願いのために。
犠牲と我侭を貫いて、今。
あの人の下でテニスを学ぶために、私は氷帝の門をくぐる。
2004年4月10日