(本誌の展開次第でなかったことになるかもしれない、本気の時間U)
それを見ていたのは、千葉龍之介ただひとりだった。テストでも授業でも底を見せないが見せた、初めての本気。その戦闘はイリーナよりも渚よりもカルマよりも、むしろ烏間に近い類のものだった。絡め取るのでも隙を突くのでも挑発するのでもない。問答無用の、何を言う間も与えない攻撃は、本当に容赦がなかった。具体的に言えば、は相手の急所を狙った。狙うことを躊躇わなかった。人間に対しては効果を成さないナイフを巧みに操り、彼女は敵の関節を破壊した。相手を傷つけることに対する脅えも焦りも恐怖も、そういったものは欠片も感じられなかった。ただは凄まじい速さで動き、流れを読み、相手を沈めた。もちろん彼女とて完全に無事ではなかったし、打撃や切り傷をいくつか受けていたけれども、それでも決着がついていたときに立っていたのはだった。静かに足元の身体を見下ろして、小さく息を吐き出す。そうして彼女は振り返り、笑った。
「千葉君、無事?」
援護なんてする暇もなかった。それほどまでに彼女は自由自在に動けていたのだ。命のやり取りも何もかも、まるで些細なことのように扱っていた。千葉はごくりと唾を呑み込む。戦いに向いた人間というものを、彼は初めて目にしていた。
俺が覚えた躊躇を、彼女は知らないようだった。
2013年10月21日