(本誌の展開次第でなかったことになるかもしれない、本気の時間)
楽しい暗殺旅行になるはずだった期末テストの御褒美が、一転して殺せんせーではなくE組生徒の生死を賭けることになってしまった。A組から勝利の名の下に横取りした夏休みのバカンスで、E組はクラス一丸となって殺せんせーの暗殺を決行した。集めた恥ずかしい映像で精神的に疲労させ、気づかぬうちに足元を水で満たし、そうして期末テストの学年トップが銃弾でひとり一本、殺せんせーの触手を奪う。同時に作り出した水の檻で殺せんせーの逃げ道を塞ぎ、あえて当てようとはしない銃撃の中で、千葉と速水による隙を縫っての遠距離狙撃。やった、と誰もが思った。実際に眩い閃光が周囲を眩ませ、今までとは違う手応えに誰もが暗殺の成功を感じていた。けれど、やはり殺せんせーはその名の通り殺せないからこその「殺せんせー」だった。核弾頭はおろか、対殺せんせー用特殊兵器ですら傷つけることの出来ない形態へと姿を変えたのだ。完全な球体となった殺せんせーは、喋れはするけれども全く動くことが出来ない。二十四時間経てばいつもの身体に戻るらしいが、それまでは手の出しようがなく、E組の暗殺は失敗に終わった。今回こそは、と皆で力を集めて挑んだのに、やはり敵わなかったのだ。
だが、そこから事態は急転した。暗殺失敗の落胆に浸るまでもなく、E組の生徒の半分が正体不明のウィルスにより血を吐き倒れたのである。烏間の携帯電話にかけてきた人物が犯人らしいが、その男は殺せんせーを持って島のホテルの最上階まで来いと命令してきた。生徒を救うワクチンと、殺せんせーを交換しようと言うのだ。犯人は渚と茅野のふたりで来いと言っていたが、E組の生徒たちが素直に従うわけがない。未だ発病していない無事な面子でホテルに乗り込み、ワクチンを奪うことを決意した。烏間の指揮の元、そうして課外授業は幕を開けた。
「・・・赤羽君」
リゾート地であるこの島は無人島でも貸切でもなく、椚ヶ丘中と犯人一派以外にも多くの人がいる。目標の一流ホテルは見晴らしの良い高台に作られており、裏口から入り込んだE組は、犯人がいる最上階を目指していた。イリーナが時間を稼いでくれたり、烏間が敵のガスを吸って倒れたりなどしたが、少しずつ確実に進んでいる。相手はプロだ。この三ヶ月で学んできたことを活かして数人がかりで足止めしては、残りのクラスメイトを先へと行かせる。そういった方法で人数を減らしながら、それでも上へと進む中で、がカルマの名を呼んだ。
「何、さん」
「私、抜けてもいいかな」
先頭は女子の委員長を務める片岡メグだ。男子の委員長である磯貝は前の階で木村と岡野と共に残ったから、今、チームを指揮しているのは片岡になる。リーダーシップの取れる彼女なら大丈夫だろう。しんがりを任されたのはカルマとで、ふたりは黙って階段を昇っていた。だが、話しかけられてカルマが「あー」と呟きを漏らす。
「・・・やっぱ、つけられてる?」
「うん。さっき一瞬、影が見えた」
「マジで? 気配を感じないってことは相当だろ? 俺が行こうか」
「ううん、赤羽君は潮田君のフォローをお願い。足止めなら私でも出来るだろうし」
小声で話しながらも足は止めない。今回は人間相手なら殺傷能力のない対殺せんせー用のナイフか銃を、全員が持ってきている。もスカートにナイフを挟んでいるのが先程見えたし、非武装ということはない。かといって、ひとりで行かせるわけにはいかない。カルマは前を歩いていた千葉に声をかけた。
「千葉、俺とポジション交代」
「カルマ?」
とんとん、と軽く登ってくるカルマは、擦れ違い様に千葉の耳元で囁いた。
「後ろからついてきてる奴がいる。さんがやるから、フォローは任せた」
「っ・・・分かった」
先頭の片岡は、すでに次の階に辿り着いて怪しい人間が廊下にいないか確認している。大丈夫、というサインと共に、殺せんせーの入ったビニール袋を持っている渚が続いた。茅野と速水と寺坂がそれに続いていく。最後にカルマが振り向き、にぃ、と唇を吊り上げた。
「さんの本気を見たかったけど、しょうがないか。・・・気をつけろよ、ふたりとも」
「ああ」
「後で追い付くから、ワクチンの方はよろしくね」
「了解」
ひらりと手を振って、カルマも階段を登り切った。最後の最後、廊下へと足を踏み入れる際にちらりと振り向けば、階段の手摺りを飛び越えるの姿があった。抜かれたナイフが煌めき、垣間見えた瞳は教室での穏やかなものではない。千葉が銃を構え、バックアップに走り出す。惜しいなぁ、とカルマは心底思った。
「さんがどんな暗殺するのか、マジで見たかったのに」
けれど今はワクチンの入手が先だ。後ろ髪を引かれながらも、カルマは先を行く渚たちを追いかける。
見たかったなぁ、さんの暗殺!
2013年10月21日