正体の時間





空になったペットボトルを、水道から溢れる水で綺麗に洗う。プラスティックの蓋も洗剤を含ませたスポンジで擦って、それらをキッチンの隅に置いていく。一本ではなく、二本。イトナで成果を確認できた翌日から、は五百ミリリットルのペットボトルを二本、烏間から貰うようになっていた。教師であり教官でもある彼は「一体何に使っているんだ」と訝し気だったけれども、に答えるつもりはない。おそらく、烏間は止めるだろうと思うからだ。彼は暗殺を依頼する側として、同時にE組の生徒たちが健やかな学生生活を送れるように配慮してくれている。きっと烏間は、殺せんせーの暗殺とE組の生徒の命と、両方が秤にかけられたのなら後者を選ぶ人なのだろう。人間として好感を抱く。けれども職務を与えられている身としては甘いのだろうな、と思う。だからは言わない。誰にも。
――液状の対殺せんせー用特殊兵器を毎日欠かさず飲んでいるなんて、誰にも言わない。
濡れた手を布巾で拭ってキッチンを出る。眠気はまだ襲ってこないが、もう夜も更けるため自室に戻ろう。二本の空のペットボトルに微笑みかけてから、はリビングの電気を消した。
シロがお墨付きをくれたことで、は自分の方法が少なくとも無駄ではないことを実感していた。四月、殺せんせーを教師と認めてから、ずっと対殺せんせー用特殊兵器を飲んできた。学校だといつ誰に見られるか分からないから、自宅で朝に半分、夜に半分。体内に蓄積するか、尿として排出されるか、可能性は未知だった。烏間に尋ねたのなら、きっと彼は「飲むべきものじゃない」と言って止めるだろうから、聞くことはしなかった。だからは体内に蓄積する方に賭けて飲んだ。昔から、この手の勘が外れたことはない。経験通り、対殺せんせー用特殊兵器は、の身体に順調に根付いているらしい。イトナが現れる前、初めて飲んだ次の日、何気ない振りをして殺せんせーに触れてみたら微妙な反応を刹那返されたから、は己の考えが間違っていないことを知った。もちろんさりげなくナイフをちらつかせていたから、殺せんせーはの身体の変化には気づかなかっただろうけれども。それ以来はずっと、科学で作られたどんな副作用があるかも分からない液体を飲み続けている。すべては卒業時に、殺せんせーを殺すために。
が選んだ武器はナイフでも銃でもなく、己の身体だった。一年かけて改造する。これならば殺せんせーに交わされない確信が、にはあった。が生徒で、殺せんせーが教師である限り、どうしたって彼は彼女の伸ばす手を拒むことが出来ないのだから。マッハ20で移動する殺せんせーの動きを止められる、何より確実な手段。それが、この身体だ。
来年の三月を迎える頃には、指先が触れるだけで触手を落とし、抱き締めたならその「心臓」すら破壊できるようになるだろう。来たるべきその日のために、は今日も対殺せんせー用の特殊兵器を飲み続ける。自分が武器になるために。
摩訶不思議な色の液体は無味無臭で、味は欠片もしなかった。





食事に混ぜることも考えたけど、これが一番確実かなって。
2013年10月21日