球技大会の時間
クラス対抗球技大会は、やはりE組が最下層であることを知らしめ、それを嘲笑うことによって他クラスが己の地位に安心し、現状をキープするために努力をし続けようと決意する絶好の機会だ。E組は、男子は野球部の、女子はバスケ部の選抜メンバーと試合をさせられ、ぼろぼろに負けることを義務付けられている。そもそもE組は学力低下故に落ちたクラスのため、部活動への参加も許されていない。すなわち野球もバスケットボールも初心者である彼らが、真っ当に練習を積んでいる部員たちに敵うわけがないのだ。今年は殺せんせーの指導を受けて前向きに挑んでいるが、それでも差はやはり存在していた。
「やっぱり強すぎるよ、バスケ部・・・」
「ごめん、点取られたー!」
茅野が滴る汗を拭い、速水が申し訳なさそうに謝罪する。女子のバスケットボールは三十分制の三ピリオドで、E組はハンデとして交代が何人でも許されている。五十点の差が開いたらコールドゲームで終了となってしまうが、暗殺で基礎体力が上がっているからか、今は二十点差でどうにか食いついていた。とはいえ、やはり負けるのは悔しい。
「大丈夫、挽回するよ!」
「声出していこう!」
次の最終ピリオドは、体操部出身の岡野に、背が高くリーダーシップの取れる片岡、動体視力の良い速水に、小回りの利く矢田、そして運動を全般的にこなせると、E組の中では最強の布陣だ。これが最後だとばかりに女子全員で円陣を組む。体育館の中は本校舎の生徒ばかりで、E組にとっては完全にアウェーだ。彼らはE組が無様に負ける様だけを期待していて、それ以外の一切を許さない。女子の競技だから観戦者のほとんどは女生徒だったけれども、中にはちらほらと男子の姿もいくつか見られた。E組だけれども、や神崎といった美少女がいるからだろう。正直な話、女子の顔面偏差値は本校舎のクラスよりもE組の方が高かった。
視線を感じて、は顔を上げた。体育館はコートの周囲も二階の観戦席も、すべてが生徒で埋まっている。飛ばされるブーイングを気にするような小心者は、もう今のE組には存在しない。うるさいなぁ、程度で流してしまえる。じっと見つめた人波の奥にある影に気づき、は唇を綻ばせた。ひらり、手は振らない。そんなことをするような間柄ではないからだ。
ぴーっと審判がホイッスルを吹く。すぐさま回ってきたボールを突いて、は向かってくるバスケ部の少女を交わした。ひとつ、ふたつフェイクを織り交ぜて速水にパスを回せば、彼女もすぐに矢田に回してシュートが決まる。わあ、とE組のベンチが湧き上がり、体育館中はブーイングに包まれる。視線はまだ、離れない。それ以降は気にすることなく、はプレーへと集中した。
十分後、E組は五点差の接戦でバスケ部に敗れた。その頃にが再度見上げてみれば、もう人波の奥に浅野学秀の姿はなかった。
男子は勝ったの? おめでとう。
2013年10月21日