女子の時間





「っていうか、あんたたちはどうなのよ。好きな男のひとりやふたり、いるんでしょ?」
イリーナの経験談は、余りに自然に紛れ込んでいた殺せんせーの暗殺によって聞くことが出来なかった。しかし騒ぎが一段落して戻ってきた女子部屋で、今度はイリーナから問われてみんなで顔を見合わせる。ちらちらとお互いに視線を交わし合って、きゃあ、と声を挙げるのはやはり十五歳の少女らしかった。
「どうする? 言っちゃう? 言っちゃう?」
「私はいないよ。同じ歳の男なんてガキじゃない」
「確かにそうだけど、磯貝君とか格好良くない?」
「前原君もね、女子にだらしない所さえなければいいんだけど」
「カルマ君は?」
「駄目駄目、顔はいいし頭もいいし何でも出来るけど性格が駄目」
「厳しいー!」
あははは、と明るい笑い声が響く。子供らしい様子に、イリーナは微笑ましく感じて肩の力を抜いた。自分が暗殺者として恋愛などとは程遠いところにいる分、徒たちの自由が眩くて少し羨ましくも感じる。いいわね、というのは決して口にはしない本音だ。そういえば、と中村が瞳を細めて神崎とを振り向いた。
「神崎さんとさんはどうなのよ? 好きな人いるの?」
「え?」
「あ、気になるー! 二人とも美人だし、同じ人を好きになったら勝ち目ないもん!」
「もしかしてすでに彼氏がいるとか?」
「気になります・・・!」
こういった話題には引っ込み思案な奥田にまで攻め寄られて、神崎が困ったようにを振り返る。うーん、と眉を下げて見つめ合っている間にも、クラスメイトたちの視線は止むどころか強まっていく。堪忍して、神崎は照れくさそうに口を開いた。
「・・・好きな人はいない、かな?」
「えーっ!」
「本当!?」
「うん。今は自分のことに精一杯で」
「そうなんだー。じゃあさんはどう?」
「私もいないよ」
「えーっ! さん大人っぽいし、年上の彼氏とかいそうなのに!」
「出逢うところがないし、ね」
の言葉に、ああ、とみんなが頷いた。本校舎にいればまたしも、E組は山の上の旧校舎だ。いるのは同じE組の生徒だけで、後はもう学校の行き帰りくらいになってしまい、出逢いのチャンスは少ないに決まってる。確かにねぇ、と矢田や速水も悲しげに首を縦に振った。E組に落とされた時点で学校中から見下されるから、今更本校舎に恋人を作ろうとも思えない。
「あ! じゃあ一度聞いてみたかったんだけど」
倉橋が明るい笑顔で、浴衣の裾を乱してにすり寄る。首を傾げるは長い髪を纏めてアップにしており、いつもの彼女よりどこか大人びてみせている。うわぁ、と倉橋は同性ながらも見惚れながら、実はずっと気になっていたことを聞いてみた。
さんって、一年のときに浅野君と仲が良かったって本当!?」
「・・・浅野君?」
「そう、学年トップの浅野君!」
「え、マジ!?」
突如出てきた名前は、椚ヶ丘中の生徒なら知らない者はいない。みんなが具体的な名前の登場にわあっと盛り上がるが、最近赴任してきたイリーナはまだ本校舎に出入りすることが少ないため件の少年が分からず、僅かに眉間に皺を寄せた。
「ちょっと、誰よそのアサノクンって」
「A組の男子! 凄く頭が良くて、一年生の頃から学年トップなんですよ!」
「何たって、あの理事長先生の息子だし?」
「運動神経もいいよね。それに顔も格好いい!」
「性格は何だか悪そうな気もするけどー」
「で、どうなの? さん、まさか浅野君と付き合ってたとか?」
今度は神崎も気になるようで、問い詰める側に回ってじっとを見つめてくる。十二人のクラスメイトに、加えてイリーナの視線を受けて、は僅かに眉を下げながら質問に答えた。
「付き合ってはいないよ。浅野君とは一年のときにクラスが一緒だったから」
「え!? ってことは、さんって元はA組なの!?」
「超優秀じゃん!」
「席が隣だったから話もしたけど、私はすぐにE組に移動になっちゃったし。関わったのは少しだけだよ」
「・・・何だぁ」
期待するようなラブロマンスはなく、がっかりした様子の少女たちに「ごめんね」とは笑った。しかし、まぁ、こんなものなのだろう。通常の十五歳に比べたら色恋沙汰と縁遠いかもしれないが、そもそもE組は最下層のクラスで、他からは馬鹿にされて笑われるしかないし、加えて今は殺せんせーの暗殺に忙しい。クラスの友情を深めるのはともかく、恋愛なんてしている暇がないのだ。
「どっかにイケメンいないかなぁ」
「顔が良くて頭が良くて運動も出来て性格が良くて」
「お金持ちで包容力があって頼れる人!」
「ビッチ先生紹介してよ」
「馬鹿言うんじゃないわよ。そんな男がいたら私のモノにするに決まってるでしょ」
「やっぱりー!」
わいわいきゃあきゃあと好き勝手に言い合いながら、少女たちの夜は賑やかに過ぎていく。





恋人じゃあ、なかったよ。
2013年10月21日