男子の時間
修学旅行の夜と来れば、それはもう思春期らしい時間の到来である。三年E組の男子部屋では、気になる女子の暴露大会が行われていた。もちろん恋愛的な意味は含んでいたりいなかったりだが、全員の意見が出揃ったところで最も票を集めたのは神崎有希子だった。清楚で美人で控えめな性格とくれば、まず嫌いな男はいないだろう。
「ああでも俺、外見だけならさんが一番かな」
怪しげな薬を作れそう、という一点で奥田愛美を押していたカルマの発言に、ぴたりと全員の動きが止まる。あー、と漏れたのは困惑であり同意であり、確かに、という納得の声だった。
「俺もカルマと同じ。さんの顔、すげー好み」
「美人だよな。綺麗だけど可愛いし」
「モデルにスカウトされたこともあるんだろ?」
「寺坂たち、今日一緒の班でどうだった?」
「あ? どっかの店に寄る度にナンパされてうざいったらねぇよ」
「おー!」
「さすがさん」
感嘆の声が一同から挙がる。彼女にしたいという意味では神崎が一番だが、純粋に外見だけを評価するならE組の一番はだった。大きな瞳も小作りな顔も、化粧はほとんどしていないのに華やかな顔立ちも、彼女を形作るすべての要素が整っていて、そして魅力的なのだ。しかし。
「性格が、な・・・」
磯貝悠馬が、うーん、と首を傾げる。
「悪くはないんだけど、何となく掴みどころがないっていうか」
「優しいし、親切ではあるんだけどな」
「さん、早く殺せんせーの暗殺してくれないかな。そうすりゃどんな性格か一目で分かると思うんだけど」
「流石にそれはちょっと・・・」
カルマの提案に、千葉や三村が苦笑いする。容姿はとても良いのに、どうしてか近寄りがたい。話しかけて会話をしていても、受け流されるような、本当の彼女はここにいないような気がしてならないのだ。それこそがの人気がトータルで上位に挙がらない理由でもある。
「・・・っていうか、はスタイルもいいよな。うちで一番の巨乳だろ」
「ちょ、岡島君!」
渚が慌ててストップをかけるけれども止まるわけがない。ごくりと唾を呑み込んだのは誰だったか。巨乳好きを公言している岡島の目は確かだ。心なしか誰もが頬をじんわりと染めて、微妙な沈黙が男部屋を埋め尽くす。え、ちょっとこの手の話ありなのするの。にやにやと悪戯に瞳を輝かせるカルマから、誰もが視線を逸らした。
「確かにさん、胸でかいよね。間違いなくCカップはあるだろうし」
カルマのその発言を機に猥談に突入したかどうかは、三年E組の男子しか知らない。
何でこんなに違和感があるのか、分からないのが更に違和感で。
2013年10月21日