修学旅行の時間





修学旅行もまた、暗殺の場である。二十七人いる生徒を四つの班に分けて、京都の街に潜んでいるプロの暗殺者が狙いやすいコースを作ることが、三年E組に課せられた使命だった。もちろん折に触れて自分でたちで暗殺を試みることも忘れてはいけない。清水寺を回った三班は合流した殺せんせーを含めて、二寧坂で土産を物色することになった。殺せんせーが買うのは好物の甘いものばかりで、原が少女らしく購入したあぶらとり紙の使い勝手はどうかと、殺せんせーの丸い顔に当てて気を引く。その瞬間を狙って暗殺者が狙撃するはずだったが、弾丸は殺せんせーの特殊な体液を吸い取って、セラミックの盾よりも硬くなったあぶらとり紙によって止められてしまった。その後は、四班の渚たちがトラブルに巻き込まれたとのことで、殺せんせーはマッハ20のスピードを活かし、文字通り飛んで行ってしまった。
「あーぁ、やっぱり失敗か」
ぽっちゃり系が売りの原寿美鈴が、分かってたことだけれども残念そうに肩を竦める。遠くからの狙撃で暗殺できるのならば、地球はもっと早く救われているはずだ。だけどE組にとっては暗殺しやすいポイントを旅行に組み込むことが役割の一端であったため、賞金百億円の分配も手伝って真面目に勤しんでいたのだが、やはり結果は火を見るよりも明らかだった。
「殺せんせーも行っちゃったし、私たちも次の銀閣寺に向かおっか」
原が封を開けたあぶらとり紙を仕舞いながら振り返る。寺坂と村松と吉田という、素行が悪く暗殺に積極的でない男子三人は相変わらずやる気のない風体だ。女子ではあるが彼らと同じように、やや斜に構えている狭間綺羅々はそこにいるけれども、もうひとりの班員の姿がなくて、原は首を傾げる。
「あれ? さんは?」
「あっち」
狭間が指さした先では、土産物店の店先で椚ヶ丘中ではない制服を着た男子に囲まれているの姿があった。背格好からいって高校生だろうか。彼らは一様にだらしない顔つきでに話しかけている。本日数度目の光景に、あー、と原は呆れた溜息を吐き出した。
「またか・・・。相変わらず凄いね、さん」
「美人だから仕方ないんでしょうよ」
華やかな容姿のは、京都の地でも異性を引き寄せるらしかった。異性だけでなく、同性の女子も振り返っては「モデル?」などと囁き合う。原と狭間は別にと特別親しいというわけではないが、仲が悪いというわけでもないので人数の都合上、共に班を組んでいた。狭間が寺坂たちに向けて顎をしゃくる。
「蹴散らしてさんを回収してきてよ」
「はぁ? 何で俺たちが行かなきゃいけねーんだよ」
「こういうときに磯貝や前原みたいな、顔の良い男がいればいいんだけどね」
寺坂たちじゃ柄悪く追い払うことしか出来ないし、と狭間がわざとらしく肩を竦めれば、吉田と村松が「あ?」と凄んでくる。まぁまぁ、と原は間に入って両者を宥めた。
「あたしが行ってくるから、みんなはここで待ってて」
日々の暗殺で培っている度胸は、見知らぬ男子高校生相手なら発揮するまでもない。原はさっさと近づくと「さん」と後ろから声をかけた。と共に高校生たちが振り向き、何だこいつ、という視線で原のことを見下ろしてくる。
「次、銀閣寺だよ。予定が詰まってるから早く行こう?」
「は? デブは黙ってろよ」
「彼女は今俺たちと話してんの」
何ならおまえらだけで先に行けば、という言葉よりも、ぽっちゃり系を自負している原にとっては、デブという一言こそが問題だった。反射的にこめかみが怒りに引き攣ったが、それよりも先に高校生に囲まれていたは一歩を踏み出して、原の前へと出てくる。ちょっと待てよ、と背後から伸ばされた手を、彼女は自然に身を翻して交わした。ゆっくりと唇の端を吊り上げる。
「すみません。失礼します」
行こう、原さん。制服の袖をついと引かれて、原も高校生たちに背を向けた。しつこそうな輩だったけれども、意外にも追ってくることはなく、ふたりは狭間や寺坂たちの待つ場所へと戻ってくることが出来た。
「遅い」
「ごめんなさい」
「別にいいけど。早く次行くよ」
狭間が歩き出す半歩後ろを、も大人しく着いていく。その隣に原が並び、女子三人が次の目的地について話し始める後ろを、男子たちがだらしない足取りで歩いていく。それは暗殺者とはとても見えない、どこにでもいる中学生の集団だった。





お土産、何買う?
2013年10月21日