57.もうどうしたら良いのか分からない
本当に、相性としか言えない。私が零の前では泣けないけれど、リドるんの前では泣けるように、でもどっちも大切な存在のように、この三つ子は、私にとってある種特別な位置を占めている。藍の衣の下でそんなことを考えてると、不意に手に持っていた書簡がなくなった。一瞬後に離れた場所で何かの落ちる音がする。え、ちょっと待って。今、放り投げなかったですか? 思わず素で涙が引っ込んじゃったよ。
「主上、官吏は茶州への派遣と連日の勤務で疲れが溜まっている様子」
「しばし休暇をお与え願いたい」
「彼女は十分働いた。それくらいの権利はあると思うが?」
三つ子の声が何か言ってる。主上ってことは、王様が近くにいるのか。ってことは楸瑛さんも、李侍郎も近くにいるのか? うあ、やばい、上手く気配が探れない。動揺してる。違う、ほっとしてる? 任せてるんだ。この、三本の腕に私のことを。
「・・・・・・分かった。官吏には茶州での功績を評価し、しばしの休暇を与える」
「とのことだよ」
「本家へ帰ろう」
「君に貴陽は重過ぎた」
大丈夫です、とか言うつもりなのに、うまく言葉にならない。本気で動揺してる。一度緩んだ感情が、どうも制御出来てない。こんなの久しぶりだ。どうしよう。うまく動かない。私が巧く動けない。
衣を被ったまま抱き上げられる。反射じゃなく、すがるように腕を回した。三つ子が笑う。大丈夫、とでも言うように、優しく背中を撫でられた。本当に余裕がない。余裕がないよ。
今はただ深く、何も考えずに眠りたい。
三つ子に抱えられたまま、私は貴陽を後にした。
ごめんね、秀麗ちゃん。出迎え、出来ない。
ごめんね、ごめん。だけどお願い、今だけは。
2006年10月16日