54.つめあと、を残して
冬がもうすぐ終わる。茶州はもうすっかり治まって、影月君はこれからも居残り、秀麗ちゃんはもうすぐ戻ってくることになっている。しばらくは謹慎らしいし、ご自宅にお邪魔してのんびり乙女会話でも楽しもう。そして王様に自慢していじめることにしよう、うん。復帰した工部ではみんな歓迎してくれたし、飲み会では相変わらず管尚書の独壇場だし、でも珍しく欧陽侍郎も鉄壁の肝臓を披露してくれたし。仕事は順調、滞りなく。黎深さんのお宅にお邪魔したら、奥方の百合姫様と盛り上がっちゃったよ。娘扱いしてくれるんだよね。そんなお年でもないだろうに。黎深さんは秀麗ちゃん人形茶州編に喜んでくれたし、また収入も得て懐は温かい。黄戸部尚書に新しく作った仮面は、春をイメージして桜色にしてみた。派手じゃないかと言われたけど、そんなことないですよ、と返した。素顔より全然地味ですよって言葉には沈黙されていたけれど。楸瑛さんとは相変わらず貴陽藍邸で朝食を一緒にし、李侍郎とは会ったら話をしつつ道を誘導し、珀明君とは日向でお昼を食べて、邵可さんとは府庫でお茶を飲んだりする。黒白大将軍とは空き時間に手合わせをしたり、厨房の料理人さんたちからは差し入れをもらったりして、毎日は順調に過ぎていく。すべてがいつも通りに進んでる。だから大丈夫。全然平気。今日も手の中の書簡を持ち直して、府庫への近道のため、庭園を突っ切った。大丈夫、今日も私は平気だ。
目の前で、藍の衣が翻るまでは・・・・・・平気なはず、だった。
風が吹く。
2006年10月11日