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53.素通りなんてしたくないよ





「何だ、帰って来たのか」
吏部尚書執務室を訪れると、やっぱり床一面に書簡が転がっていた。その中で綺麗に微笑む黎深さん。いやぁ、楽しい感じに目の保養です。
「お久しぶりです、紅吏部尚書。帰ってきて速攻でお仕事しに参りました」
「工部の書簡はそこにまとめてある。勝手に持っていけ」
扇で示された先を見てみれば、小さな棚の上に書簡が山盛りになっている。床とは一線を異なる扱い。黎深さんとの友好関係がいかに大切か、でもってその潤滑油の秀麗ちゃんがいかに大事かが一目で分かる現状だね。本当にありがとう、秀麗ちゃん。
「紅吏部尚書が裁可して下さったんですか?」
「絳攸がうるさかっただけだ。やれ『昭乃が帰ってくるから仕事して下さい』だの、『工部の書簡だけは片付けてもらいます』だの。あいつは私の補佐なのだから自分でやればいいものを」
「いやー有難い限りです。今度お会いしたらお礼を言わないと」
書簡を腕に乗せていくと、両手が塞がるけどどうにか持てそう。だけどこれじゃ礼が出来ない。頭が下げられないので言葉と笑顔で勘弁してもらおう、うん。
「それでは失礼致します。秀麗ちゃん人形茶州編につきましては、また後日」
「百合が会いたがっている。屋敷に来い」
「了解です。それじゃ、また」
にこりと笑みを残して吏部尚書執務室を出た。あぁそういえば黎深さんの持ってた扇、私が茶州に行く直前、新年の挨拶として贈ったものだった。綺麗な緋色、反応し忘れちゃったなぁ。



「お帰りなさい、久堂官吏! 本当にお疲れ様でした」
戸部尚書執務室を訪れると、景侍郎にそう言って出迎えられた。私の両手を塞いでいた書簡もさりげなく受け取ってくれる。あぁ、相変わらずの癒し系。
「只今帰りました、景侍郎。何だかお久しぶりです」
「本当ですね。秀君も久堂官吏もいなくて寂しかったですよ」
「嬉しいお言葉をありがとうございます」
お礼を言って、正面の机へと向き直る。戸部は吏部と違って床がちゃんと見えている。どう考えても尚書の差だよ。実務能力の違いはほとんどないはずなんだけど、性格の差が如実に出てる。
仮面をしてても相変わらずの美形オーラ。私がいなかった間も変化はなかったようで、喜ばしい限りです。
「只今帰りました、黄戸部尚書」
「あぁ。・・・・・・ご苦労だったな」
「いいえ、貴重な経験をさせてもらいました」
相変わらず忙しそうな黄戸部尚書だけれども、顔を上げて労ってくれる。あぁ、それなのにすみません。私は黄戸部尚書の仕事を増やしに来ちゃったんですよ。これもすべて溜め込んでいた黎深さんにおっしゃって下さいな。
「どうだった、茶州は」
「そうですねぇ、閉鎖的な地方だったことが災いして、いろいろと立ち遅れてましたね。後一人通ったら落ちそうな橋や決壊寸前の土手なんかもいくつかありましたし」
「やはりそうか。茶家の当主も代替わりしたし、一度視察が必要かもしれんな」
ふむ、とビジネスモードで黄戸部尚書が思案を始める。うん、確かに茶州は視察が必要だと思う。今まで以上の予算のつぎ込みと、人手を割かなきゃ。
「それじゃあ、書簡の方は二刻後に受け取りに来ますね」
「それまでに片付けておく」
「ありがとうございます。黄戸部尚書、景侍郎、それじゃまた」
にこりと笑みを残して戸部尚書執務室を出た。あぁそういえば黄戸部尚書のしてた仮面、私が茶州に行く直前、新年の挨拶として贈ったものだった。力作の性質、反応し忘れちゃったなぁ。





ごめんなさい、まって、まって、まって、
2006年10月11日