52.追い風は少しだけ優しい





久しぶりの工部は、やっぱりお酒の匂いが充満していた。ずっとここにいると気にならなくなっちゃうけれど、久方ぶりだとやっぱり来るね。ふわふわ良い気分になって来たよ。
です。只今戻りましたー」
とりあえずトップにご挨拶をと思って管尚書の執務室を訪れてみれば、まぁ一段と素晴らしいアルコール臭。そりゃあ香の匂いも消されちゃいますって、欧陽侍郎。
入ってきた私を見て、管尚書は唇の端を吊り上げた。
「あぁ、やっと帰って来やがったな」
「そんなつれないこと言わないで下さいよ。これでも帰還部隊第一号なんですよ?」
「でも遅すぎますよ。あなたがいないせいで吏部に提出した案件が返ってこないったらありません」
「あー・・・・・・」
そういや黎深さん、仕事溜めるのがお得意だったっけ。私が持ってくと友人と需要供給関係でさくっと処理してくれるから忘れていたよ。やれば出来る人なんだけどなぁ。やらないから質が悪すぎる人に変化してるよ、まったく。
「つーわけで、てめぇの最初の仕事は吏部だ。滞ってるうちの書簡を全部奪い返してこい」
「了解です」
「その足で戸部にも回ってきて下さい。吏部にある書簡のほとんどが次は戸部行きのものですから」
「了解です。それじゃあ行ってきます」
やれやれ、やっぱり前言撤回。朝廷はほのぼのしてるけど、下っ端官吏は常に大忙しだ。デスクに戻る間もなく吏部へ出張。出ていく私を呼び止めて、上司二名は笑ってくれた。
「今夜はてめぇの帰還祝いだぜ」
「勤務時間終了と同時に始めますから、さっさと仕事を片付けてくるんですよ」
「―――了解です」
敬礼とともに笑顔を返す。やっぱりマイホームはいいなぁ。転勤帰りの父親の気持ちがちょっと分かったよ、うん。





お願い、笑いかけないで。
2006年10月8日