51.また明日ね、といつものように手を振って
医師団の半分を引き連れて貴陽に戻ってきたら、何か朝廷はあわあわしてた。多分、秀麗ちゃんと影月君が予想外の働きと結果を出してくれちゃったから、無能官吏さんたちがどうしようと対応に困ってるんだろう。あははー勝手に困って下さい。私は高みの見物をさせて頂きますー。
葉医師も茶州に残ってるので、とりあえず医師団の代表として王様の元へ報告に伺うと、何でか宣政殿じゃなくて執務室へと通された。おお、距離が近いよ。王様の綺麗な顔が間近で見れて、とっても良い感じだね。
「こちらが紅州牧、杜州牧よりの報告書になります」
「うむ。官吏、そなたもご苦労だったな」
「もったいないお言葉・・・・・・。わたくしは紅州牧の、ひいては主上のご意志に従ったまでです」
「・・・・・・官吏、余はやっぱり寒気を感じて止まないのだが」
「何を申されます、主上。わたくしは若輩ながら朝廷を担う官吏の一人。主上に対しましてこの上ない礼を取ることは当然でございます」
「でも、余はやっぱり恐ろしいのだ・・・・・・」
「では馬鹿殿とお呼び致しましょうか? それとも振られ男とでも?」
「そ、それはどちらも止めてくれ・・・・・・!」
あ、王様が崩れた。直接的表現すぎたかなぁ。隣で楸瑛さんが笑ってるよ。李侍郎は眉間を指で押さえてるけど。しくしくしくしく王様が泣いてる。あはは、ちょっと可愛らしい。
「そんな泣かないで下さいよー。どちらも本当のことじゃないですか」
ぐさっと一撃加えてみる。おお、さらに王様が崩れた。
「官吏は・・・っ・・・官吏は、余が嫌いなのだな・・・・・・!」
「え、嫌いじゃないですよ。いじるとちょっと面白いなぁって思ってるだけで。後は秀麗ちゃん大好きな者としての牽制ですかね?」
がばっと顔を上げた王様に、にっこりと笑みを向けてみる。
「王様に男の恋人がいたように、秀麗ちゃんに女の恋人がいても全然良いと思いません? むしろ私と秀麗ちゃんがくっつくことによって華が二つ。実に麗しい?」
「だだだだ駄目なのだっ! 秀麗は余の妻になるのだ!」
「一度離婚された分際で良く言いますねぇ。もっと痛いところを突きましょうか?」
「うっ! ・・・・・・や、止めておく・・・」
王様は完全撃沈、私の勝利! くすくすと笑っていた楸瑛さんが、穏やかな笑みで私を労ってくれる。
「お帰り、殿。無事に帰ってきてくれて嬉しいよ。これで私も兄たちに面目が立ちそうだ」
「・・・・・・ご苦労だったな、官吏」
「いいえーお役に立てたなら幸いです」
楸瑛さんにも李侍郎にもにっこりと微笑んでみた。そんな私の様子に、李侍郎はほっとしたように肩を震わせる。心配かけちゃったなぁ。申し訳ない。あれ? でもここって私が謝るところか?
「それでは只今より、通常の工部勤務に戻ります」
「・・・・・・うむ」
「今度、秀麗ちゃん話でもしましょうか。どっちが秀麗ちゃんのことを愛してるか勝負、みたいな」
「余は負けぬぞっ!」
「私も負けませんよー? 何たって茶州では一緒にお風呂に入った仲ですもの」
「・・・・・・!」
「それでは楸瑛さん、李侍郎、ついでに主上、御前を失礼」
最後のパンチで王様KO! 後は任せました、双花のお二人。
手を振って執務室を後にすると、李侍郎の王様を怒鳴る声が聞こえてきた。あー、久しぶりの朝廷はやっぱり良いねぇ。ほのぼのしてるよ、まったく。
ただいまと、上手く言えない。
2006年10月8日