45.目を瞑って、まだ開かないで居て





「時々、生きてるのが空しくなりません?」
「なるなる、しょっちゅうじゃ」
「目の前でどうしようもなく散っていく命を見たときとか」
「目の前ですぐにでも死にそうな奴が自分にも出来ないことを成したときとか」
「本当に、何で生きてるのか心底疑問に思いますよ」
「おまえさんはまだ若いからいいじゃろ。俺なんか見ろ、もう何度そんな思いをしてきたか」
老人の言葉に、少女は笑った。どちらも互いの顔は見ない。器は所詮本物でないと知っているからだ。

「・・・・・・本当に、何で生きてるんでしょうかねぇ」



秀麗がを見つけたとき、すでに彼女は真新しい衣服に着替えていた。白一色のそれは、進士時代を思い出させる。一年も経っていないのに、ずいぶんと昔のことのように感じた。
!」
運んでいた薬品を腕に抱えたまま走り寄れば、髪をまとめていたが顔を上げる。隣にいた少年がそれを引き継ぎ、丁寧な仕草で彼女の頭に帽子を被せた。
その少年は、秀麗が初めて見る人物だった。まだ若く、月のような薄い金色の髪をしている。顔立ちは劉輝や静蘭に劣らない美形で、涼やかな雰囲気をまとっている。不思議に思ったが、彼の着ている服もと一緒だったので、きっと医官の一人だろうと秀麗は思った。
「これから治療に入るのよね? 何か必要なものがあったらすぐに言って。出来るだけ早く用意するから」
「うん、ありがとう。精一杯手を尽くすから、こっちは任せて」
「・・・・・・うん。私こそありがとう、
微笑んだ同僚に、秀麗も心から礼を言った。忙しくて碌に話も出来ていなかったけれど、が医師団に加わってくれると知ったとき、彼女が人体切開出来るという驚きよりも先に、共に来てくれるということに喜びを覚えた。魔女っ子という少し不思議な少女だけれども、秀麗は彼女に何度も励まされてきた。頼もしい味方だと知っている。力になってくれる仲間だと思っている。
だからこそ、心の底から礼を述べた。
「本当にありがとう、がいてくれて本当に良かった」
「・・・・・・秀麗ちゃんが望むなら、何でも叶えるよ」
「うん。ありがとう」
葉医師の手本が終了したのか、若手医官たちが追い出されてくる。彼らの顔色はどれも悪く、患者よりも患者に見える彼らに秀麗は顔を曇らせた。
そんな彼女の肩を、細い手が優しく叩く。
「それじゃ行くね、秀麗ちゃん」
「あ・・・・・・うん」
「大丈夫、任せて」
行くよ、レイ。そう言って傍らの少年を伴い、は建物の中へと入っていく。その際に向けられた笑みは自分を励ますためのものだと、秀麗にも分かった。手の中の薬品を持ち直す。
立ちどまってる暇はない。今はただ、走るしかないのだ。





私は私の出来ることを懸命に。
2006年9月22日