43.嘘じゃなかった、けれど本心でもなかった





「あ、私、馬に乗れます」
小さく挙手して発言したら、何でか羽林軍の皆さんに盛大に嘆かれてしまった。何でも秀麗ちゃんを楸瑛さんが乗せるのはともかく、私を誰が乗せるかで権利争いが起こってたらしい。そんなに期待されても大した御礼は出来ませんよ? 茶州に着くまでの背中のぬくもりと柔らかさくらいですって。



八日走って茶州の端っこ、崔里関塞に到着した。その間も食事の時間は常に動物とにらめっこだよ。もう完璧に捌けます。そのうち馬刺しとか作ろう。豚トロで寿司とか握ろう。それくらい職人技になってきたって。
最初は入れてくれない様子だったけど、男の人が降ってきて、秀麗ちゃんがその人に抱きついているうちに、内側から扉が開いた。羽林軍の皆さんとはここでお別れ。楽しかったハーレムもここでお終い。
殿」
秀麗ちゃんに挨拶をし終えた楸瑛さんが、私にも声をかけてくる。
「どうか無事に帰ってきてほしい。でないと私は兄上方にどう申し開きをすればよいのか分からないよ」
「三つ子は私のことを愛してくれてますから、殉職って言えば納得しますよ」
「冗談でもそんなことを言うんじゃない」
ぴしゃっと跳ね除けられてしまった。真剣な顔の楸瑛さんが私を見下ろす。あー・・・・・・これはこの前の王様とのやり取りを聞かれたなぁ。確かに大声で怒鳴ってた私が悪いんだけど。
「・・・・・・君にとって私たちの好意は重荷かもしれないけれど、心配くらいはさせてほしいよ」
「重荷じゃ、ないですよ。嬉しいです。ありがとうございます」
殿は優しいね」
ふんわりと、どことなく困ったような顔で笑って、楸瑛さんは私の頭をぽんぽんと撫でた。妹扱いされまくってるような気がするけど、良しとしよう。本来なら義姉扱いされるはずなんだろうけれど、それは置いておくとして。
「気をつけて行っておいで。どうか無事で」
「はい。楸瑛さんもお気をつけて」
へらっと笑ったら、やっぱりぽんぽんと撫でられて、何でか頬をびよーんと引っ張られた。セクハラだ。
何度も後ろを振り返りながら去っていく羽林軍の皆さんを見送る。残ったのは医師団のみ。・・・・・・吹けば飛びそうだなぁ。

っていうか、私の中でめちゃくちゃ予感がするんですけど。スリザリンが鳴いてるんですけど。
ちょっと縹家、おまえら茶州に来てるだろ! 見つけたが最後、クルーシオかけて散々苦しめてやるから首を洗って待ってなさい!
特に縹璃桜! あんただけは縦ロールにしてやるから髪も洗って待ってるがいいわ!





優しくされると困る。私は優しく出来ないから。
2006年9月19日