41.すきです、なんて、言えない。
その後は霄太師と葉医師とのんびり茶なんか飲んだりして、年寄りっぽい話をして、じゃあえそろそろ仕事に戻ろうかと席を立ったら、二人も用事があるらしく一緒に部屋を出ることになった。やっぱりのんびり廊下を歩いているところ、何かがダッシュで目の前を横切った。あぁ、今のは愛しの秀麗ちゃんっぽい。こっちに気づいて振り返った秀麗ちゃんは、葉医師に気づくと直進してきて、その手をがしっと掴んで引っ張っていく。
「葉医師ーっ! すぐに来て下さいーっ!」
「うおぉっ!? 何じゃ、秀麗嬢ちゃん!?」
「とにかく来て下さいーっ!」
行きと同じく素晴らしいスピードで、秀麗ちゃんは葉医師を引きずって退場していく。残されたのは、私と霄太師のみ。
えー・・・・・・と。どうしたものかなぁ。
とりあえず霄太師と別れて工部に帰ったら、何かすごく騒がしいことになっていた。いつもは結構のんびりしている工部官な皆さんが、書簡をひっくり返しつつ仕事してるよ。何事、これ。管尚書がお酒でも止めたんですか?
「やっと帰ってきましたね、官吏! あなたちょっとおいでなさい!」
「あ、ただ今帰りました、欧陽侍郎」
「この忙しいときにどこ行ってたんですか!」
「えーと霄太師に誘われてお茶を飲んでました」
その前に縹家に強襲されたりもしてたんだけど、それは省いておくとして。ぎょっとして欧陽侍郎は振り向いたけど、すぐに管尚書の執務室へと入ってく。そこではやっぱり異常気象か、管尚書までがお酒も飲まずに書簡に何かを書き付けていた。え、マジで何があったんですか?
「ようやく来やがったな、てめぇ。一体どこで油売ってやがった」
管尚書にも言われるし。私がちょっと留守にしてた間にずいぶんと何かが起こったらしい。だけど個人的には私も大変だったんですよ。何たってあの縹家に、あの縹家に目をつけられたんですから!
「まぁいい。おい、てめぇが進士のときに提出した課題を覚えているか?」
「もちろんですよ。かぼちゃの馬車と薬の調合法です」
「おまえ、薬に詳しいのか?」
「一般人よりかは。一応医学もかじってるんで」
とか言った瞬間、管尚書の目が光ったんですけど。気のせいですか? それにしても悪どい光り方じゃなかったですか?
「どれくらい通じてる? 人体切開は出来るか?」
「ものすごく難しいのじゃなければ出来ます。盲腸とか、腎臓摘出くらいなら」
不破と医大にもぐりこんで習得したんだよねぇ。基礎から頑張って、飛び級して、研修医として寝る間もなく働いて、でもって開業すると嘯いて撤収した日々。医学に関しては魔法よりもマグルの方が適確だし、知識を得れて大満足。
「よし、てめぇ茶州に行って来い!」
「何故に茶州?」
「奇病が起こってるんですよ。治療は人体切開しかないらしく、紅州牧に医師団の派遣を要請されてます」
「あー・・・はい、分かりました」
「今頃、葉医師が若造に技術を伝授してる。てめぇも行って来い」
「了解です」
放られた書簡をキャッチすると、管尚書らしい乱雑な字で、私の茶州行きの命令が下されていた。執務室を出れば、欧陽侍郎が葉医師のところまで案内してくれるらしい。
「気をつけて行ってきなさい。間違っても病気にはならないように」
「はい。行ってきます」
「戻ってきたらまた扱き使いますからね」
「あはは、楽しみに帰ってきます」
「嘘ですよ。ちゃんと仕事をしてきたら、褒めてあげます」
やっぱりキラキラしている欧陽侍郎は、ちらりと笑みを見せて送り出してくれた。
「いってらっしゃい、官吏」
本格的に本編に合流しそうな雰囲気。
2006年9月16日