40.世界を知ったのはいつのことだったか
やってらんない、やってらんない、まったくもってやってらんないね!
私が何をしたって言うのさ! つーかスリザリン系にばっかり所望されるのはどういうこと! 誰だ、私をこんな風に作ったのは! っていうか彩雲国に来てから自己形成物を見直してばっかりなんだけど! もしかしてそのために放り込まれたのか!? どうなの、ブロッケン!
「いやしかし、縹家に見染められるとは大した娘じゃのう」
「若者美形な顔で爺様口調は止めて頂けますか、霄太師」
「さっきの術はどうやったんだ? 見事な防御だったなぁ」
「お褒めのお言葉をありがとうございます、葉医師。っていうか何で私はこんなところで呑気にお茶なんか頂いてるんでしょう。人外魔境に足を踏み入れる気はまだこれっぽちもないんですが」
「もう遅いじゃろう。おぬしはすでに立派な人外魔境じゃ」
「仙人に言われたくないですし」
「おまえは霄みたいに外見は変わらんのか? 見た目通りの年じゃないだろう?」
「変わりますよ、変わりますけど、でも基本はこれですよ。邪道な手を使えば28歳の姿にもなれますけど、魔法使えばどんな姿にだってなれますけど、アニメーガスにだってなれますけど、でも絶対やりません。縹家になんかもう二度と会いたくありません」
「あーそりゃ無理だな」
「無理じゃな。縹家のしつこさは筋金入りじゃ」
「うっわ最悪。で、何ですか。こんな茶を飲んで世を儚む年寄り話をするために呼び出したんじゃないでしょう?」
つーかこの性格の悪い老人もどきがそんなことをするわけないだろう。それにしてもこの人たちが彩雲国作成に力を貸した仙人なのかと思うと、やっぱ長生きはしてみるものだなぁと思うよ。私もそのうち国作りシミュレーションとか手を出してみようかなぁ。
「あぁ、そうじゃった。おぬしの魔法とやらに目を奪われて忘れておったわ」
あっさり言ってのける霄太師は、やっぱり美形で若いけど狸にしか見えないのはこれ如何に。
空になった茶器をことんと置いて、向けられたまなざしはさすがに彩八仙だと思うけど。
「―――」
「何でしょうか、霄太師」
「今後、おぬしには一切の国政への関与を禁じる」
クビ? クビですか? いきなりクビかよ! どれもこれも縹家のせいだよ! 再就職先斡旋してくれんのか、コラ!
「おぬしは、『異なる者』じゃ。そのような不確かな存在に、我が彩雲国を託すわけにはゆかぬ」
そりゃそうなんだけど、そりゃそうなんだけど。確かにいつ帰るのか分からないからあんまり要職にはつかないつもりだったんだけど、こう先に拒絶されると反抗したくなるというか。まだまだ若いなぁ、私も。
「藍家の寵姫であることは許そう。紅秀麗の友であることも、工部官吏として橋を架けることも許そう」
あ、何かリストラはされないっぽい?
「じゃが、この彩雲国を動かす大局の流れには、おぬしが関わることを一切許さぬ。この国はおぬしなどなくとも成り立つ。『異なる者』の才などあってはならぬのだ」
「・・・・・・つまり、魔法を使わずに、ただの人間として生きろということですね」
「そうじゃ。彩雲国はおぬしの箱庭ではない」
鋭い視線は霄太師のもの。だけど黙ってるってことは葉医師も同意見なんだろう。でもまぁ、その気持ちは分かる。私はどこまでいったって、所詮はどの世界にとっても異邦人なのだ。
「分かりました。私も気をつけますけど、もしも行き過ぎてたら止めて下さい」
「無論じゃ」
「すまねぇな、お嬢ちゃん」
「いーえー当然のことですから」
諸手を挙げて賛成の意を示せば、どうやら霄太師も葉医師も納得して下さったらしい。あー・・・・・・何か本当、彩雲国に来てからさりげなくダメージ受けてるような気がする。そんなにやわじゃないつもりだけれど、フルメタルで出来てるわけでもないんだよねぇ。ちょっと、ちくちく来ていたり。
こんなことならリドるんを連れてくるんだったよ。会いたいなぁ。元気でいてよ、リドるん。
少しずつ、積もっていく。傲慢だって知っているけど。
2006年9月12日