29.不貞腐れてないでこっちおいで。





「ですからね、黄戸部尚書。私の趣味の一つに美形を観賞するというものがありまして、まぁ最たる好みは美少年&美少女なんですけれど、でも黄戸部尚書だけはその枠組みから飛び出してると思うんです。私の美形探査機が告げてるんですよ。おそらく黄戸部尚書は彩雲国一の美形だと」
「人件費が多すぎる」
「じゃあここ一割削減で。私の国では異性に服を贈るのは脱がすためっていうちょっと間違ってるっていうか全員がそれを信じて実行しちゃったらどうなのみたいな風習があるらしいんですよ。で、私はそれに則って黄戸部尚書に仮面をお送りし続けているわけですが」
「資材は黒州のものを使え」
「今年は良い木材が出てるらしいですねぇ。黄戸部尚書も私の贈った仮面をつけて下さっているということは、満更でもないと受け取っても良いのでしょう? まぁ性質も素晴らしい仮面にしたつもりなんで、一度つけたら病み付きになっちゃったなんていう落ちも作成者としては嬉しい限りなんですけれど」
「設計は宿師か」
「気に入って下さったみたいで必ず声かけろって言われてるんです。でも外したところが見てみたいと思うのは、美形スキーとしても黄戸部尚書を尊敬している身としても当然のことだと思うんですよねぇ。それに我が欧陽侍郎が黄戸部尚書のご尊顔を絶賛してまして、上司と部下の絆を深めるためにも話の種になって頂きたいなぁなんて思うんですけど」
「人手は確保したのか」
「紅吏部尚書から抜かりなく。確かに失恋は人を傷つける最たる手段だと思いますけど、時が癒してくれるものでもあるとかないとか。まぁその恋敵とほぼ毎日会ってしまうというか会いにこられてしまう腐れ縁でいらっしゃることはご愁傷様と申し上げるしかないのですけれども」
「・・・・・・誰から聞いた」
「さぁ、誰でしょう」
にっこりと微笑んだ少女を感嘆の眼差しで見やりながら、景侍郎は上司の負けを悟った。反応してしまったが最後、彼女の笑顔からはもう逃げられない。

「黄戸部尚書、私はあなたの美貌に屈さないとお約束します。専属仮面技師を手に入れる対価が素顔を晒すだけだとしたら、お安いものだと思いませんか?」

財政を司る戸部のポイントを実に的確に突いてくる。しばし睨み合いが続いた後、奇人が溜息と共に仮面へ手をかけたのを、景侍郎は拍手で見守った。





・・・・・・何か、本当、期待以上の超絶美形で心底嬉しい限りなんですけど、でも何故か黄戸部尚書の今までの人生における苦労を想像しちゃったりして悲しくなってきたりしてるんですけど。あぁでもうん、本当にお綺麗で嬉しい限りです。あれですね、人類の限界に挑戦されてるんですね。今までそれなりに長い人生を生きてきましたけど、黄戸部尚書はその中でも間違いなく最上級の美形さんです。お会いできて嬉しいです。ありがとうございます!
2006年9月2日